2.衣類について考えられる材料(T氏) (1)気温が氷点以上では、雪ではなく、みぞれか雨になります。そのときの気温は? 体感温度は? どうすれば寒さを防げるか? なにが登山者において重要でしょうか? ちなみに、雪になるか雨になるかの分かれ際は、上空の温度によっています。地上が4℃程度以下なら、氷点下でなくとも、上空の気温が相応に低ければ、雪になるとされています。上空1000メートルの気温が何度かが目安になるとされているようです。 この場合には、衣類が水に濡れることが、最も避けなければならない事態です。みぞれはすぐに解けるし、またはすでに解けていて、解けたあとの水は、溶解熱によって一時的に氷点以下にまで下がります。だから、なんとしてもみぞれの水に多量に濡れることは避けなければなりません。この時期にこわいのは、真冬ではないと思って安易に濡れてしまうことです。 環境=外気の気温自体は、まだ雪にならない程度なので、上空は氷点下でも、そのときいる地点は氷点以上となっています。 このことから、濡れを防ぐためにも、雨具を早めに着用し、さらにその下にフリースの一枚も余分に着込めば、寒さがしのげるだろう、ということがおわかりでしょう。外気温がまあそこそこには低いので、運動による体熱の産生はある程度は抑制されているでしょうから、雨具の着用とその下に着る衣類の選択に失敗しなければ、意外に汗もかきにくく、暑くもなく、動きやすい気象であると考えられます。 そこで寒さ、暑さの感じ方によって、個々人で雨具の下に適当と思う重ね着をすればよいわけです。寒さの感じ方は個々人ですので、各自の工夫が必要です。 どのような衣類が適切かですが、肌に接する衣類(肌着)としては水分をはじき、肌に触れる水分を衣類の中間にとどめて肌から離すような化学繊維製のものや、ウール製品が好ましいこととなります。以前、僕がお話しした「綿製品」を中間着(肌着の上)として着れば、水分は集中してこの綿製品に特異的に吸収されることになるでしょう。だから、その綿を脱げば、体の周りにあった水分は除去されて、快適な衣類環境となるんじゃないかと推測するしだいです。 また、ゴア・テックッスの雨具であれば、雨具内の水蒸気は少しずつでも外部に排出されるでしょうから、水の侵入を防ぎさえすれば、過剰に体の周辺に水分がまとわりつくこともないと考えられます。こうして、水分による体温奪取がおこらず、安全は保たれます。 (2)では、次は、雪が降っているときは、どうなるでしょうか。 雪が降っているということは、外気温が人の生存域では、最低でも氷点か、それ以下だということです。人が着ている衣類の表面は外気にさらされているので、その限りでは外気温と同じほどと推測されます。正確に言うと、寒さが厳しいときは、衣類の表面はほぼ外気温と同じですし、風が吹いていれば、外気温とさらに等しくなります。こういうことを言うのがなぜかというと、衣類は伝導熱(この場合には体から外に伝わる体熱;温度も高い場所から低い場所に向かって流れるので、体から外部に出ようとします)と、もう一つの放射熱(遠赤外線というやつです)、および対流の3つによって衣類は温められていきます。そのため、無風のときには、衣類の表面下近くの層はすでに外気温以上に上がっています。外気温とどのくらいの違いがあるかは、風の有無、衣類の素材の質(放射熱を通しやすいものかどうかなど)、また運動の激しさによると思われますが、一定ではなく、定量化にはなじまないでしょう。温度差が大きくなれば、それだけ高温域から低温域への熱の移動はより速くおこりますから、激しい運動で体温が上がっているときは、体はより冷えやすい状態だと言えます。むしろ、激しい運動時には、そのようにしてどんどん上昇する体温を外に逃がさなければならないので、このことは理に合っています。 少なくとも風が少しでもあれば、外気に近い衣類の層はそうでないときよりは下がっていますし、黒っぽい衣類や編み目の細かな衣類は赤外線の通過も対流もおこしにくいので、熱を外に逃がしにくいわけです。これは、逆に言うと、赤外線や対流熱として外部に逃がしている熱が少ないということでもあり、保温につながる効果となります。どんな衣類が熱線や対流熱を外に出さないか、ということも温かさに関係する課題となるわけです。 雪が外着の表面に触れて解ける場合は、雪の温度がそもそも高くて、解けやすい状態であるうえに、衣類の少し高い温度に触れただけで溶融をおこす状態です。この場合には、やはり水濡れをおこす可能性があるので、雨具か、ゴア・テックスを組み込んだ外着を着用しなければいけなくなります。 一方、例えば、雪(=外気温)が-5℃以下というような低温だった場合は、体内から伝わる伝導熱も赤外線も対流熱も、溶融をおこさせるだけの影響力を持たず、外着の表面からすぐに滑り落ちるまでです(解けた雪=水だけが衣類に残って、繊維に沿って毛細管現象によって体内のほうに浸透していきます)。 気温が低くて雪のとき、雨具を着る必要があるでしょうか? ありません。 羽毛着(ダウンジャケット)など、表面が滑らかで、雪を繊維の中にとどめない緊密編みになっている衣類なら、雨具を着るのと雨具でない衣類を着るのとで、大きな違いはないと推測されます。だから、相当の寒さのときに雨具を着ることの意味は、せいぜい寒さよけ、風を衣類の最外部ではじくための防風着(ウィンドブレーカー)の役割しかしないわけです。こうみれば、雨具ほどさまざまな目的に応用でき、心強い衣類はないことがわかります。それも、雨具は、その外側の「一皮」で効果を持つのだということもおわかりだと思います。 雨具は、0.0・・単位の超薄い膜のゴア・テックスをナイロンなどの繊維で表と裏から挟んで補強してあり、それによって構造的な強さを得ています。 でも厳冬期になるともう一つ強い味方がいます。それが、厚手のダウンジャケット(羽毛着)です。これは気温が適度に高いときは着なければいいのですし、軽量でもあるので、安全確保上においてとても意味のある衣類です。通常は行動衣類の上に厚手のフリース着を着、さらにその上に雨具を着れば、ほぼ厳冬域以下の気候には耐えられますが、長時間の停滞や-10℃の外気温のような厳しい状況下にいるときには、保温性の高い羽毛着をザックに1枚忍ばせておくとたいへん安心です。軽いので、肩も凝りません。ビバークにも役立ちます。 (3)肌着に関してです。適当な気温で無風であれば、シャツ1枚を下着の上に着れば、行動では、ちょうどよいと思われます。下着は、腕まくりをしたりもして調節を行うこともあるので、ある程度、弾性のある、柔らかめの素材が好まれるようです。この時期、山行と通じて、長袖がよいと思います。太陽が昇れば先ほど言ったように、腕まくりをしたりすることもあるでしょう。寒くなれば、伸ばせばいいのですから。 下は、ある程度厚手のズボンにタイツを履けば(自信のある方は持てばいいでしょう)、ほぼ年内の日本の2000m程度の山に登るのに問題はないと思います。 (4)靴下:登山の際に冬でなくとも、厚手の靴下を履くことが多いと思います。その場合に、厚手の靴下のさらに下に、紳士用または女性用の薄手のナイロン靴下を履くと、靴擦れをおこさないようです。試してみましたが、効果はあるようです。登山用品店ではその目的の靴下もまれに売られていますが、2000円程度もします。安価なのを探してみてください。 衣類は、各自の選択です。いろいろと悩むことも多いのが実際ですが、なかなか興味深い中身を備えていると思います。 最近は、優れた化学繊維製品が出回っていますので、必ずしも山の道具屋さんで高価な品物を購入しなくても、いい品物を手に入れることができます。長袖の下着の場合には、編みが緊密で、どちらかというと厚手の生地のものがいいように思います。 |