2013年3月の山行

雪上訓練・湯檜曾川河岸





                        訓練終了後に全員で / 訓練を終わってもと来た道をたどる

湯檜曾川河岸《雪上訓練》

◇実施日:2013年3月16-17日(山中1泊)
◇参加者:男性9名、女性2名(11名)
◇移動・活動経過
 16日 5.06天王台---5.10我孫子---5.44/6.15上野---8.02/8.24高崎---9.30/9.47水上--〈バス〉--10.00土合橋-11.30訓練場所・・・10.00就寝
 17日 6.00起床・・・8.30~13.00訓練・・・13.50発-14.40/15.13土合橋---15.30/17.45水上---17.48/17.59高崎---19.53上野---20.50帰宅
◇共同装備:テント2張り(ダンロップ8人用、ICIスタードーム6~7人用)、マット6枚、コンロ(ガソリン仕様2台、ガス仕様2台;ガソリン1L×2、ガス1個)、ランタン(ガス2台+ガス2個、LED2台)、登攀用具(ロープ8.5mm×45m、10.2mm×50mなど)、スコップ3本、コッヘル(大チタン1、中アルミ1)、その他
◇個人装備:雨具、防寒具、その他の衣類、登攀用具(ハーネス、スリング、カラビナなど)、ピッケル、アイゼン、ストック、ワカン、寝具、マット、食器など
◇経費:食料代を除き1人約1万円(水上駅前での打ち上げ代を含む)

 
雪上訓練実施項目(クリックすると表示されます)
 
雪上訓練場所(クリックすると表示されます)

本会における雪上訓練の概要
 雪上訓練は、Obさん(元東京岳人倶楽部会員、元本会会員)の提案・指導で1996年4月に初めて導入して以来、本会における春期の定番となってきた。最初の訓練も、今回の湯檜曾川(ゆびそがわ)河岸(右岸)で行った。雪上訓練ということ自体、僕たちの目には未経験で、斬新だったが、その意義を本会でも十分に認識し、会での恒例の行事として定着させてきた。以来、本会では慣例として、雪山を目ざす入会者には、この訓練に1回は参加することを義務づけている。また訓練を目的とはしたが、多数が参加し、雪洞掘りとその中での宴会や、雪上でのキャンプなど、雪山を対象としない人にも雪に親しみ、雪と遊ぶ格好の機会を提供してきた。

 時期は、2~4月の間で試行してきたが、積雪量が多く、寒さが和らぎ、雪質も安定し締まる3月内にほぼ固まっている。場所としては湯檜曾川河岸以外に、天神尾根上や富士山五合目、湯元スキー場の上部など何か所かで行ってきたが、湯檜曾川河岸が最も多い。

 今年は事前に訓練内容の詳細なメニューを用意し、従来以上に雪山の技術を広くこなすことができた。大きく分けると、訓練内容は、①雪上の歩行と雪面の登下降、②雪上での生活(テント設営、食事、暖)、③各種の滑落停止、④ザイルを使った確保、⑤雪山の危険防止、⑥事故者の運搬などである。雪山以外でも役立つ技術として、今回はザイルやツェルト・ストックなどを利用した事故者の搬送法を取り入れた。Kwさんのご指導もあり、たいへん有意義な時間を過ごすことができたと思う。夜間に雨と雪に降られたが、両日とも昼間は雲ひとつない、温暖な天候に恵まれ、絶好の訓練日和となった。

3月16日
 天王台で常磐線上りに乗り込み、我孫子で数人と合流したが、参加のはずのSzさんの姿がなかった。上野でSzさんを除く10人が集合し、Szさんを待たずに高崎に向かった。ところが高崎で水上行きのホームに並ぼうとしたとき、Szさんがいつもの笑顔で来られて、ホッとする。出発時刻を見間違っていて、新幹線で先回りされたとのことだ。めでたく全員がそろった。

 上越線を進むうちに山間に雪が見え始めた。横川の手前で、両脇が落ちている独立峰の武尊山、真っ白く雪を帯びた谷川連峰が視界に入ってきた。電車からのこの光景は、これまでゴールデンウィークの尾瀬山行の際に何度も見てきたが、今回はそれより50日も早い。それなのに、この春めきようだ。

 水上駅からは15分待ちでバスに乗り込んだ。雪が残る周囲の情景にも早い春の訪れを感じた。土合橋で下車し、橋を渡ったところで準備をするとき、スノーシューハイカーを連れたガイドさんがやって来た。「雪上でのキャンプと飲むのを目的で来た」と言うと、「いいですねー!」と反応が機敏だった。知る人には、雪上のキャンプはそれほど魅力のあるものなのだ。その人たちに先を譲って、Osさんに先頭をお願いし、10時過ぎに雪上に踏み出した。湯檜曾川河床にはまだ分厚い雪が残り、豪快な残雪のブロック間を裂くようにして冷水が流れていた。ひたすら右岸の雪上を川上に向かう。

 雪中に沈み込んだ、古びた小さな小屋のそばでひと休憩入れる。そこで、白毛門側に大きな雪崩の跡(デブリ)を見た。そのすぐ上流が一ノ倉沢の出合だ。これまで4月や3月末だと川床の雪が融解して河床を進めなかったため、左に回り込んで一ノ倉沢側から山側に少し上がった湯檜曾川河岸をトラバース気味に進んでいたが、今回は違った。河床の右岸に雪がまだたくさん残っていて、その中洲まで小さな流れを徒渉すれば、上流に中洲通しに進むことができた。その先の中洲は、まだびっしりと雪におおわれていた。上流に進むにつれて、川に残る雪面が広くなっていく。右岸を数百メートル進んだところで、Osさんに「そろそろ」と停止をお願いした。さらに右岸(谷川岳)側に寄ったところで荷を降ろした。谷川連峰が眼前に立ちはだかり、向かいには白毛門側の雪嶺を見上げる。鋭角をしたピークは武能岳だろう。

 ここまでにも訓練に適合する河岸はあったが、周囲の景観(ロケーション)も重要な要件となる。奥に入ったほうが山の雰囲気が出るが、山登りではないから、いたずらに進めばいいといったものでもない。この停止地点は程よい地点にあって、大きなミズナラが林立する広い河床で、場所として申し分なかった。訓練に見定めた雪面の傾斜もまあまあだし、雪質もいいほうだ。急な傾斜のほうが訓練にはよいのだが、最初は雪崩の危険性がどうしても気になる。倉岡さんからも「雪崩に気をつけて」というメールを受けていた。Obさんも最初に来たとき、斜面を一人で登って雪質や雪崩の危険性のないことを確認していたのを思い出す。僕も、まず最初に登って斜面の安全を確認し、レーンを見極めた。

 スコップを振るってテント設営場所を平坦にならし、さらに育成の「忘れてはならない」という趣旨を踏まえて、竹ペグの使い方・埋め方や、テントへの紐の結び方などを取り上げた。2張りの大型テントが建った。テントからずっと西に外れたところに、Hmさんがトイレを造ってくれたが、どうもそこは夏場の登山道の真上近くだったようだ。テントが建つとホッとするが、食事を挟んですぐ午後から訓練に入る。

 ここもスノーシューハイクが盛んなところになったと時代の推移を思わせたのは、湯檜曾川の中洲を行き交いするハイカー団体が多かったことだ。その様子を横目に見ながら、実践に入った。まず簡単な進行を了解してもらったうえで、隊を半分に分け、Kwさんに一隊の訓練指導をお願いした。ベテランの指導が受けられるのは、本会では創設後そうはなかったことで、本当にありがたい。僕の受け持った隊では、最初にアイゼンを付けずに行う登下降として、上りでキックステップ、下りでは踵(かかと)踏み付け下降を学んでもらったあと、アイゼンを装着した際の、雪面と雪質および傾斜に応じたアイゼンの置き方、さらにピッケルの支持による2点確保下降を習得してもらった。

 とくに硬雪面の登下降やトラバースでは、全爪歩行(フラットフッティング)がきわめて重要で、必須の技術だ。訓練とあって、雪質が軟らかく現実感覚をやや欠いたが、みんな初心に帰って、熱心に繰り返し学んでくれた。どの技術も繰り返し行うと、格好が伴ってくるものだ。最初は腰が引けていた急斜面での下降では、上半身を垂直に保持したまま、膝の屈伸を軟らかく使ってバランスよく行うことが大切だ。さらに傾斜が増した斜面では、ピッケル支持による「2点確保」下降が適応となる。これらも、しっかりと練習してもらった。

 3時半過ぎに、この日の訓練を打ち切った。もう1つの目的が夕方から待っている。夕方近くになって全員が大型(8人用)のダンロップテントに集結し、「かんぱーい!」の合唱が響いた。2台のガソリンコンロが勢いよく燃えた。今回の食事は、人数が多く、食材の量や種類が複雑になるのを嫌って、めいめいで「1人分の鍋の食材」を持ち込む、いわゆる「ヤミ鍋」とした。煮えた鍋をお代わりしながら、おいしくいただいた。今回は、翌日の「おじや」用に少し残して、食材をすべて消費し切った。

 予報されていなかったが、夜になって降り出し、雨脚がひときわ強まり、トイレをがまんする人が出始めた。やがて、みぞれに、夜半に近くには雪になり、しばらくの間、降り続いた。斜面の上で採取してきた氷柱が焼酎のロックに役立った。Idさんが持ってきてくれたのを含めてけっこうな酒量だったが、この日はほとんどすべて消費し切った。

3月17日
 翌朝も晴れ上がった。快晴の下、降り積もった新雪がうっすらとテントと周辺をおおおっていた。テントを揺すると雪が流れ落ちる音が、雪山に来たという情感をかもす。しかも、無風のうえに暖かかった。まばゆいばかりの雪面に、豊かな樹林と両岸の山が奥行きと彩りでアクセントを加え、たまらぬ自然の造形美を見せた。テントの外で昨夜の残り汁にパックライスと取り置いた食材を加えて「おじや」を作り、遅い食事とした。ハイカーが早々に数パーティー通りかかる。

 8時半から訓練に入った。同じように2隊に分けた。2日目は道具を使った技術訓練や、普段はなかなかやらないが緊急の場合には応用性の高い項目をひと通りやっておくことにした。実施した訓練項目は別表のとおりだ。とくに、これまでに試行したことのない事故者の運搬法なども項目も盛り込んだ。ザイルでハンモックを編み、それを担架(タンカ)として事故者を乗せて運ぶ方法や、ツェルト(またはテントのフライシートか外張り)を使った担架も作った。運搬者は、自分の身長に合わせたテープスリングを、肩掛けにして使うのが楽だ。下山路から人を降ろす場合には、運搬者が重さで左右や下に動きが過剰に勢いづかないように、後尾の左右からブレーキ役としてロープで引き、緩やかな、動揺の少ない動きとなるような補助も重要となる。

 懸垂下降では、8字環、ATC(air traffic controller)、安全環付きカラビナを使った降下法を試行した。Kw隊では、肩絡み懸垂も組み入れていた。最後にお楽しみとして取っておいたグリセードは、雪質の関係でうまく滑らなかった。

 11時半ごろまで訓練をしたあと、食事を挟み、さらに訓練を実施した。みんな、「たいへん真面目な生徒さん」で、予定の時間を過ぎ、終了は1時を回っていた。

 急ぎテントを撤収し、1時50分にテント場を後にした。もと来た湯檜曾川河床を行くと、土合橋のたもとの家の青い屋根が見えだし、あっという間に車道に着いた。往路に1時間半かけたところを、わずか50分だった。4人の女性登山者がバスを待っていた。

 水上駅では、1便見送り、駅前の蕎麦屋さんで打ち上げとした。僕には初めての店だったが、11人が大挙して行ったからだろう、蕎麦に添えられたてんぷらは大盛りのサービスだった。今でもHmさんから、「あのてんぷらはおいしかった」という言葉が出るほどだ。電車もとんとん拍子で、十分な席が確保でき、気分よく帰路をたどった。手前味噌ながら、たいへん内容豊かな、いい訓練だったことを記す。みなさん、ご協力いただき、ありがとうございました。また、お疲れさまでした。(2013/4/20)

                

[雪上訓練模様] 写真をクリックすると、拡大されます
   
       
      

 土合橋の脇から湯檜曾川右岸の雪面に踏み出
 したあとの周辺の情景 厚さ2メートルを超える雪
 がまだびっしりと残る
一ノ倉沢出合の手前で 左側上の岩稜部は
谷川連峰、右奥の白いピークは武能岳、
その右奥の雪稜は清水峠付近

    

 一ノ倉沢出合の手前で 左側上の岩稜部は谷川
 連峰、右奥の白いピークは武能岳、その右奥の
 雪稜は清水峠付近
休憩地点近くの白毛門側に見た巨大なデブリ


    
 
 湯檜曾川の一ノ倉沢出合


一ノ倉沢出合を左に見て湯檜曾川側に下る
季節が遅いと、こちらのルートは水流があって
とれない 以前は、湯檜曾川を避け、左の山側
に高巻いて進路をとった

    

 湯檜曾川の徒渉。雪解けは進んだといっても、
 水流は浅く細い
徒渉した先の気持ちのよい雪面を行く


 
   

 訓練場所とした河岸の斜面 上部には氷柱が
 あった 傾斜は急なところで最大40度ほどか
左に同じく、訓練に選んだ斜面


    

 たった2張りの大型テント 訓練場所がすぐ近く
 で、絶好の場所だった
本会の名が入ったダンロップ8人用ベーステント


    

 テント場の白毛門側に見た雪崩の跡

雪上訓練(1) ステップキックで雪面を登る


    

 雪上訓練(2)

雪上訓練(3) トラバースと下降


    

 雪上訓練(4) ピッケルを支点にする2点確保
 下降



雪上訓練(5) 下降時のピッケルの持ち方
通常、ピックを後ろ、ブレードを前にして持ち、
急な傾斜ではダガーポジションをとる
さらに急な傾斜では、ピッケル支持による2点
確保下降をとる

    

 雪上訓練(6) ピッケルとアイゼンとのコンビネ
 ーションワーク

雪上訓練(7) 転倒したときのとっさの体勢の
とり方 ピッケルを持ち上げ、停止姿勢に移行
しやすい体勢とする アイゼンは雪面から浮かす

    

 朝食の調理。昨夜の残りの鍋に具を足し、調理
 済みパック飯を入れて少し煮ると、「おじや」ので
 き上がり
コーヒーを淹れてくれるMyさん



    

 雪上訓練(8) ハーネスを装着していないときの、
 体へのザイルの直接の結び方

雪上訓練(9) ハンモック型の担架。毛糸着を
編むのと同じ要領のようで、さすがにFdさんは
じょうずに織り進めていく

    

 雪上訓練(10) スクラム徒渉。水流が速い川の
 徒渉では、2本足歩行は危険で、簡単に流れに
 足をすくわれ転倒してしまう
 そのため、2~3人が荷を背負ったまま互いの肩
 に手を回してスクラム(櫓)を組み安定を得、その
 まま川を渡る



雪上訓練(11) ツェルト(またはテントの外張り
やフライシート)を使った担架
内側に保護用に銀マットを重ねて敷き、ツェルト
も1人がくるめるくらいの広さまで折りたたむ
布地に丸い石や丸めたハンカチを入れて、それ
をスリングで結び、引き点とする
できればテープスリングがよく、運搬者の身長に
合わせて調節して肩掛けとし、6人程度で一斉に
担ぐ

    

 雪上訓練(12) 懸垂下降の模様 
 一般的な器具のATCや8字環を使った方法以外
 に、安全環付きカラビナを半マストノットで連結し
 たイタリアンノットを使った方法、さらにボディー懸
 垂(肩絡み懸垂)も実施した
同左





    

 雪上訓練(13) ついでに、基本的なザイル操作
 や結び方を教わる
帰途、土合橋のたもとの青緑の屋根の家が見
えてきた

    

 水上駅前での打ち上げ 雪上訓練では初めての
 店で、「サービスした」という大盛りの山菜てんぷ
 らが最高だった

                        

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