3月の山

奥日光・湯元

~雪上訓練~


3枚の写真が自動的に切り替わります。

◇実施日:2016年3月12日(日帰り)
◇参加者:男性8名(うち講師1人)、女性3名、合計11名
◇行路&時刻: 6.10/6.15我孫子駅北口---10.20/10.30湯元・・11.00湯元スキー場上(訓練現地)・・11.15訓練開始・・12.20/12.50昼休み
           ・・15.40訓練終了・・16.30/17.00湯元・駐車場---20.15我孫子・・20.30/22.00反省会
◇装備共同 ロープ3本、スコップ2本、マット2枚、その他
       個人 衣類(防寒具)、雨具、スパッツ、ピッケル、ストック、アイゼン、わかんor/&スノーシューズ、魔法瓶・水筒、その他
◇経費:1人4600円(反省会費を除く)

はじめに
 本会において雪上訓練は、雪山(厳冬期~残雪期の山)登山に参加する場合の資格要件として最低1回は参加してもらうこととなっており、この20年ほど毎年実施してきている。この数年、ベテランのKnさんに講師役をお願いしており、今年も引き受けていただいた。ご自分の山行を削って、この訓練に協力していただいており、あらためてお礼を申し上げたい。訓練が必要な該当者数人のほかに、雪山有資格の方々も多数参加していただき、意義ある訓練山行となった。

    訓練現場まで
 参加者が増え、締め切り後にも申し込みがあって、最終的に合計11名になった。
 我孫子駅前に定刻に集合し、2台の車で出発した。高速道を順調に進んだが、先行したT車が外環道を走行しながら後続のK車をミラーで観察中に、東北道への入り口を見逃してしまい、高速道からいったん降りる羽目となった。Uターンして戻り、高速道に復した。東北道を1時間ほど走り、20分くらいの遅れで、最終待ち合わせ場所とした「いろは坂」への上り口の手前の駐車場に着いたものの、Kn車が見えなかった。しばらく待ってKn車が到着。事情を聞くと、Kn車も東北道を行き過ぎてしまい、同じように戻って時間ロスをしてしまったとのことだ。しかし、初めからハプニング続きとは、なにやら楽しい予感がする。
 ゆっくりといろは坂を行くが、今年はめっきり雪が少ない。除雪され道路ぶちに積まれた雪も、時季外れに見られる残り雪程度と思われた。ちらちらと雪が舞う奥日光を進むうちに、戦場ヶ原あたりで陽が射し始め、男体山が大きな山面を見せたが、頂上付近は雪に煙っていた。まわりの景色を楽しみながら、湯元に到着。湯ノ湖の湖面はいくらか氷結していたが、完全氷結もあった過去の記憶からして、今年の異常な暖冬ぶりが推測された。駐車場は除雪された雪が周辺に積まれていたが、完全に除雪されきって、乾いていた。
 荷物を整理し、必要な装備を詰め、ザックを背負って、出発となる。またしても失態だ、カメラを忘れて取りに戻るが、スキー場のリフト乗り場でKtさんが待ってくれていた。雪の舞う寒々とした雪世界を、2本のリフトを乗り継いで、スキー場の上端部まで行く。そこから白根沢の右岸に沿って少し進んだ後、スキー場の左岸となる尾根に上り、ここにマットを2枚敷いて、みんなの荷物を下ろした。ここが今回の現場だ。白根沢には遭難碑があった。
*2本目のリフトがぶつかる山の根元を右側に進めば五色沢だが、われわれが進んだのは左側の小さな沢で、ここに流れ下っているのが白根沢だ。過去、といっても25年以上昔の話だが、この白根沢で、地元栃木県内の山岳会の隊が冬に入って、大規模遭難を起こしたという記憶がある。ただし、年内の早い時期(12月)には、年末でもこの沢を下ることができる。われわれも、経験者の案内で過去の12月に白根沢を尻セードで一気に下った経験がある。勝手を知れば安全と便宜が得られて、楽しいものだ。次回にとっておこう。遭難碑はその事故を悼んだものだと思うが、その場では碑文が読み通せなかった。

湯元の駐車場の前。こんなに雪が少ない。 準備を整えて、さあ出発。
リフト乗り場。待ち時間もなく乗れる。 リフトの上から

▼訓練する場所から俯瞰した。青空が見え始めた。

 訓練開始~訓練
 Knさんの指示で、2隊に分けて訓練を行うこととなる。それぞれ必要な装備を取り出し、活動に備えた。Knさん隊はKdさん、Kmさん、Stさん、Fnさん、Ftさんが生徒になった。Tn隊にはKtさん、SzNさん、Htさん、Mmさんがついた。僕のほうは生徒さんのみなさんが経験者ばかりなので講師など面映ゆいのだが、それぞれの講師で考えたメニューで早速、実施に移った。訓練にはやや雪が軟らかかったが、傾斜は割に急で、いい感じだった。
 Knさん隊は、事前にうかがっていたとおり、もっぱら雪上歩行を繰り返し行っていた。滑落停止訓練も加えていたが、派手でない単純なこの繰り返し訓練は、初心のメンバーには技術よりも雪の上の感覚を体で養うのにおおいに役立つはずだ。残雪期にバランスよく、かつリズミカルに安全に雪面を下る要領は、ぜひ習得しておきたい。かつ、上りでキックを加えながら確実に歩むという基本も重要だ。
 一方、僕たちのほうは、メンバーの経験度から、より上部の傾斜の強い雪面を選んで、いくつかのメニューを実施した。最初はアイゼンなし・ストック保持による基本的な雪面歩行、次いでピッケル保持による歩行、続いてトラバース(横切り)歩行、アイゼン装着歩行、ザイルを使っての固定ロープによるトラバース移動、雪面の上の登下降歩行などを行った。ワカンとスノーシュー(ズ)装着による歩行も試した。なかなか経験することのない、ワカンの効果がどれくらいあるかを経験するためだが、みなさんはどう感じられただろうか。わかんの適用(必要度)の判断は難しい。
 途中、昼食休憩を挟んだ。寒さもさほどではなく、いつの間にか男体山に太陽が当たり、スキー場が明るく俯瞰されるようになった。午後も引き続き訓練を行う。
 そして最後に、Knさんのオリジナルメニューである「雪埋め(雪中埋没)体験」である。雪面に穴を掘り、そこに人がうつむいて寝、背中から雪をかぶせて埋めてしまう。ただし、信号が出せるように靴の一部は雪をかぶせないでおき、本人は寝るとき顔に両手で空間を作り、息のできる隙間を確保する。
 終了時間が来たが、Knさん隊に僕らも合流させてもらい、希望者で経験した。「身動ができない」「暗闇のこわさがある」などさまざまな感想が語られた。Mtさんは空間を作らなかったために、苦しかったそうだ。みなさんの勇敢さには目を見張った。
【雪崩について】 
 
山にもよるが、雪山で命を落とす原因として一番多いのが雪崩だという。窒息、圧迫による圧死だといわれている。まともに雪崩にあうと、ほぼ100パーセント助からない。雪崩は予防・回避しかないので、この訓練が役立つかどうかわからないが、その経験の一端を味わって、雪山のこわさを身につけてくれたのではなかろうか。山はまずこわさを認識しなければいけないだろう。
 次回は雪崩の原因や、起こりそうな場所の見分け方も講習に取り入れてはどうかと思っている。低体温症の一時的回避訓練も考えていたが、次回にとっておく。

 雪上訓練メニュー~~さまざま

わかん装着は余った紐をほかの箇所に結わえて、
簡単にはほどけたり、ゆるんだりしないようにする
のが肝心。
3時間、目いっぱい、雪上歩行、トラバース、ストックとピッケル操作、わかん装着での歩行、滑落停止などを行った。
予想したほど寒くもなく、穏やかな一日だった。恒例の訓練山行だが、来年は湯檜曽川河岸が予定となっている。

 雪中埋没体験
雪の穴を掘る(お母さんのおなか 穴に入る(ただいまー)
お帰り ご苦労さん(お母さんだから安心ね) 温かいなー(でも、まだ足がのぞいている)
どうだ 参ったか!(悪い兄が!) 1分だけ胎内にいました
生まれてきましたよ そろそろ時間となりました。埋没体験を感慨深げに語るMt隊員。

   帰還~反省会
 興味ある珍しい体験に、その場が盛り上がった。終了予定時刻になっても、体験希望者が絶えなかった。たそがれ始め、4時になろうとしていた。現場に別れを告げることにする。
 帰りはスキー場の端を、ワカンとスノーシューをつけて三々五々下った。スキーヤーもボーダーも、お世話になったスキー場には気の毒なほど少なかった。どのスキー場も、これが現実のようだ。それでも、2本のリフトは動き続けていた。どこか哀しさを誘うものがあった。
 帰りに、車中から懐かしい錫ケ岳方面を仰ぎ見た。戦場ヶ原の樹木が切れた区間から、3年前のあの稜線が視界にひとときだけ入ったが、同定はできなかった。また、30年近く前の1月にこの近くを先輩たちと歩いたときは、腰の上まで積雪があったが、今年はことに雪が少なく、あれとは別世界であった。しかも戦場ヶ原のあたりだけ、まったく雪がなかった。Ktさんからこの異様な現象の指摘を受け不思議に思えたが、その理由はわからなかった。
 来た高速道を順調にたどり、渋滞もなく、8時前に我孫子に着いた。

 もしよかったら、ということでみなさんの希望を聞いたところ、全員から「やろう」との回答があり、「反省会」を持つこととなった。運転手2人は車を置きにいったん家に帰り、反省会の場所に急いだ(市外のKdさんはその日は車を我孫子にデポした)。いつもながら楽しいひとときだったが、訓練山行という別の意味が加わったせいもあるのだろう、あるいはよほど楽な訓練だったため体力を持て余したのかもしれない、賑やかな反省となった。この楽しさが、春山の雪の上で何倍もに増幅して再現できるよう期待したい。
 みなさん、ご参加・ご協力いただき、ありがとうございました。そして、お疲れさまでした。(T・K)


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