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山の非常食・予備食


我孫子山の会





 上の2つの写真は、非常食を1つにパックしたもの。プラスチック容器やビニールの密閉袋がよい。プラスチック容器は、きわめて軽い商品が売り出されている。


                                                                          When having been in emergency?

                                                           
A.山での食料
 普段から使用している、登山における食料の「呼称や定義」について、この機会に再確認しておきましょう。
 一般には、山での食料を大きく分類すると、次の4つになるようです(『山の用語なんでも事典』)。①朝・昼・夜の「日常食」、②行動中の空腹を満たす「行動食」、③日常食に余裕を持たせる「予備食」、それと④それらを使い果たしたときのための「非常食」です。


B.非常食
1)山での「非常食」とは
 「非常食」という言葉は、近年、大規模な自然災害が頻発するようになり、認識が高まってきたようです。通常、言葉どおり「非常事態」のための食料という意味ですが、山登りでいう非常食とは何なのかは、意外に意識されることが少ないようです。「非常事態」とは、日常生活でも山においても、食料・水などの必需物資が涸渇し、手に入らなくなった状態のことです。その前に、日常生活ならインフラの破綻が、登山なら山から出られなくなった事態が起こっています。
 日常生活では非常事態はきわめて稀にしか起こりませんが、山登りは自ら進んで危険をより多くはらむ地帯に入っていく行為ですから、より起こりやすいといえます。ところが、あまりそれが意識されないというのは、「非常事態」に自分は遭わないと思っているか、それを当たり前の前提としているからです。
 しかし、しばしばテレビや新聞紙上で山での「遭難」というニュースを目にします。山での非常事態は山岳遭難をさしますが、ある頻度(確率)で現実に起こっているわけです。山登りでいう「非常食」とは、日常よりも確率として遭遇しやすい事態に備えるための食料であって、非常食を持つということは、遭難の可能性を念頭に置くということです。非常食を用意しながら、事故の防止ということを気にとめることにもなります。

2)「非常食」の考え方
 これは「ピンチ食」とも呼ばれ、文字通り非常時のための食料です。予定していた日程と違う状態(具体的な要因としては、道迷い、体調悪化、大怪我、天候急変など)になり、持参していた食料が尽きた場合に食べるものです。宿泊を伴う山歩きには必ず持参しましょう。とはいえ、日帰りで出かけたまま予定の日内に下山しないというケースも稀にニュースになっているくらいですから、日帰り山行の場合も、雨具同様、入れておく習慣をつけたいものです。

3)何を持つか
 基本的には「非常食」には手をつけずに無事に下山できるのが通常のあり方です。そこで、同じものを複数回の山行に持参できるように、賞味期限の長い、日持ちするもので用意します。
 胃に負担をかけずに、素早くエネルギーに変換される、糖質を多く含んだものがよく、また非常時を想定すれば調理の必要が無いものが望ましいでしょう。




 さまざまな種類があるが、基本的には「食べない」食料なので、「好み」のものを、というのも理に合わない。



4)どの栄養成分がいいか
 遭難は長期に及ぶ場合もありますが、助かるかどうかは数日が勝負でしょう。何日分もの非常食を持つというのは、かえって体力の消耗を生じますし、現実的ではありません。
 栄養成分として糖質(炭水化物)は体内に吸収された際に、グルコース(ブドウ糖)換算で1gにつき約4kcalの熱量を生みます。脂質は約9kcal、タンパク質は約4kcalです。脂質がエネルギー量としては最も熱量効率が高いのですが、消化・吸収に糖質よりも複雑な経路を要します。つまり、食べてすぐに力にはなりにくく、時間がかかるのです。
 また、糖質はせいぜい数時間分しか体内に溜められない一方、脂質は体脂肪として体にたくさん溜め込んでいます。タンパク質も筋肉として多量に持っています。人間は、体に溜め込んだ成分を分解して使うことができます。これらの脂質もタンパク質も最終的にはエネルギー源として、糖質と同じ働きをします。しかも、体脂肪を燃やすには、有酸素下で少量の糖質を補ってやると、より効率的だとされています。だから、生存環境が大丈夫であれば、水さえあるなら、人間は食料がなくても長期間生きることができます。といっても、山中では、どう生存を確保するかという話になります。
 以上から、非常食としては糖質を多く持つのが妥当だといえます。短時間内の直接的な体温の維持(寒いときにすぐに体が温まるなど)にも糖質が最も有効です。

5)どんなふうに包装するか
 これらは、単品一袋全部を持っていくと多すぎる場合もあるため、過剰包装のものは袋をあらかじめ取り除き、適量だけを取り出し、荷物を軽く小さくして持っていきましょう。または何種類かのものを適当に組み合わせます。行動食とは別にパッキングしておくと分かりやすく、いざというときにあわてなくてすみます。
 なお、種類の違った食品をまとめて1つにする場合は、食感や味が混ざり合わないように、それぞれを薄い袋に小分けして入れたうえ、まとめて1つにします。
 入れ物としては、ビニール製のストックバッグに詰め合わせて入れるとか、軟らかい食料などは、薄いポリ製の入れ物に収納するなどの工夫をすると、しっかりした状態で保管することができ、複数回の山行に持参することも可能になります。これらの容器は、100円ショップで購入することができます(▼本ページ冒頭の2枚の写真参照)。

6)どれくらい持てばよいか
 どれくらい持てばいいかは、まず山行の大きさによります。日帰りのハイキングなら1食くらい、縦走なら2日分くらいとなるでしょうか。上にみましたように、救助隊が到着するまでの1~2日を生き延びるという観点で考えればいいでしょう。寒い時期には、少し多めになります。



C.予備食 
1)予備食とは
 次は「予備食」ですが、これは通常食べる以外の予備のための食料です。「非常食」とは異なり、1日あたりプラス1食など、個々人の判断で持っていくことが多い食料です。
 適用するケースとしては、予定の行路を予定の時間で歩き通せず、途中でビバークを余儀なくされたとき(ただしその際の追加の1泊は予備日であること)や、もう1日山で過ごしたいと1泊を追加した場合など、時間的なトラブルや予定外の時間延引が発生したときに備える食料です。いずれも緊急・非常の事態ではないことが前提です。ちなみに、時間切れ・時間延長の場合や、予備日を使うときは、下山連絡先にその旨、携帯電話などで連絡をしていなければなりません。
 ビバークは緊急に行う場合を除けば、かなりの場合、避難小屋や平坦地でのテント生活場所が想定されますから、非常食と異なり、水が得られるなら簡単な調理をする食料(レトルト食品など)であっても差し支えないでしょう。





 「保存食」と明示がある。開封しない限り1年間程度は賞味期限がある。普通のご飯でも、また雑炊にしても、けっこうおいしく食べられる。湯または水を入れて待つるだけでOK。


2)どんな中身か
 簡単にすませるという趣旨なら、ある程度は空腹を満たす食料であることが必要です。カロリーメイトや、スニッカーズ、シリアルバーなど栄養素のバランスが考慮されたものも多種あるので、好みに合うものを選択するとよいでしょう。その他、アルファ米などのドライフーズなども軽くてお勧めです。
2014/10/17 K・M


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