2014/07/31 我孫子山の会・育成係



人体の成り立ちと登山 

   人体の不思議!!


ここに掲載した資料は、本会の育成机上講習として書き起こしたペーパーをもとに、加筆して再構成したものです。無断転載・引用をお断りします。



   最初に問題を提示します。次のQ1~5は、スポーツに関心がある方、登山をしている方にはなじみのある問題ばかりですが、必ずしも深く意識されないまま今日まで来られたという場合が多いのではないかと推測します。とはいえ、ご自分の体のことです、知っていて損はありません。身体は実に巧妙な仕組みによって複雑な環境に備えていることがわかります。単なる「水」と思うなかれ! なのです。


Questions

Q1  ある日の日帰りの登山の上りで、粉末のポカリスエット(PS;生理的スポーツ飲料)1L(1リットル)を水に溶かして飲みました。普通に行われている行動ですが、この飲料水は、摂取されたあと、どのような経路・反応を経て、どのように身体の中で吸収されて利用され、また体外に排泄されるのでしょうか。
 また、純粋水(純水)と生理的スポーツ飲料水が吸収される体への速さは、どのように違うでしょうか。ただし、PSの成分はエネルギー:27kcal、タンパク質・脂質:0g、炭水化物:6.7g、ナトリウム(Na):49mg、カリウム(K):20mg、カルシウム(Ca):2mg、マグネシウム(Mg):0.6mg としますす。

Q2  私たちの肺では、酸素を取り込むと同時に、二酸化炭素(炭酸ガス;CO2)がたえず排泄されています。二酸化炭素は酸素(O2)と炭素(C)の化合物です。どちらの元素もどこかから得てこなければなりません。酸素は呼吸によって大気中から取り入れた成分ですが、では炭素はどこから来た成分でしょうか。また、CO2 はどのような経路を経て生成されたものでしょうか。ヒント:意外性がある。
Q3  私たちは、ある程度までは運動強度を上げて運動をすることができますが、あるレベルから以上の運動強度になると、それ以上、運動を続けることができなくなります。これはなぜなのでしょうか。ヒント:2つある。
Q4 登山中、または下山後に、からだが「むくむ」ことがあります。登山中に水をたくさん飲みすぎて、体に水がたまってしまったことが原因なのでしょうか。
Q5  私たちは原理的には、エネルギーと水分を十分に補ってやれば、運動(歩行や運動)を何十時間も続けられる“永燃機関”のはずです(例えば、海洋性のマグロやカツオのように)。それを試した人がいます(鹿屋体育大学教授の山本正嘉さん)。しかし、人間では、理論どおりにはいかないことが身をもってわかった、とその著書で語っています。どのような問題があったのでしょうか。念のために、睡眠不足が原因ではありません。 

人体の仕組みと働きに関する基本の理解
 以下では、人体がどのような仕組み(構造)と働き(機能)を備えているのかを、生きている生命体としては最も小さい細菌と比較しながら見ていきます。細菌は単細胞生物ですが、厳しい生存環境に身をさらしながら、周囲の環境中から栄養素を摂取するなどして自らの生命活動を営み、子孫を残し、また環境からの攻撃や不利な刺激に対して自身を防護する装置を備え、その生存・営みを果敢に維持しています。
 例えば、感染性の細菌(病原細菌)が人体内に侵入した場合には、細菌は人体を生存環境とします。その結果、人体内の白血球(とくに好中球)によって免疫機能が発動されるため、人体内は細菌にはとても厄介な生存環境になります。それなのに「虎穴に入らずんば・・・」といわんがごとくに、敵の攻撃を排し無効にする力を持った細菌には、ハイリスクであっても体内は栄養素を多く含んだ場所であり、あえてハイリターンを選ぶのです。
 細菌にとっては領土権の主張なのかもしれません。「脳」を除く自分の身体は、実は個人にとっては「借り物」「仮の宿」なのではないかという理解を可能とすることにも思い至ります。その証拠に、極端な話、例えば腕1本を失ったからといって、「自分を失った」とは人は認識しないのです。司令塔である「脳」だけが自分自身であって、ほかの身体部分はすべて借りた、現世上の仮装や家屋なのではないか、という理解が成り立ちうるように思われるのです。わがまま放題に自分の完全な指揮下にあると思って使い、また無理を強いてきた「自分の体」がどういう受忍に甘んじているかも、併せて学んでいってください。
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 1個のヒト(人体)は60兆個(以上)という細胞から構成されており、それぞれの細胞が細胞内で独自に生命活動を営んでいます。1個の細菌細胞とヒトの細胞はだいたい同じ大きさです。ヒトの体は、細菌と比較すると、細菌が有機的に60兆個集まって、1つの人体機能を営むために集合した合体(ごうたい)ともいえるわけです。それらの各細胞を取り巻く体内環境(内部環境)は、細菌を取り巻く環境と非常によく似ているといってよいのですが、ヒトの体内では細胞が生命活動をしやすいように体全体として巧妙にお膳立てされています。そのような環境を作り、維持する目的のためだけに特化した機能を担う細胞群があり、何重にも防護、保護態勢が敷かれています。
 人体など高等の多細胞生物はすべて、こうした特殊に分化した細胞群の機能を持った各種の組織、さらにはその上位の器官から成っており、全体として1つの働きに収斂する機能単位をなしているわけです。その意味でも、そのトップに君臨する「脳」が別格の存在となっているように思えますが、すべての細胞が相互に協力して初めて1個の「人」として存立しえています。その意味で、失った「腕1本」が必ずしも自身の全体に関連するとの認識はなされず、腕は「借り物」であったり、また「借地」だったりする位置にあるもののように映ります。
 ところで、すべての体内環境に共通しているのが、1つには水性の環境だということ、そして2つには、細胞自身が生きていくための酸素呼吸が営める環境としての条件が整っていなければならないということです。水性の環境というのは、栄養素や酸素、電解質(ミネラル)など生命活動に必要なあらゆる物質、ならびに体内で不要になった老廃物(CO
、尿素、尿酸などの物質)の運搬が水に溶けた状態で行われていることと関係しています。そのほか、温度条件など重要な環境条件はありますが、恒温動物であるヒトでは栄養素の代謝によって体温を産生しながら体温調節をしているので、結局は上記の2つの環境条件が重要になってきます。冷たくなった指先などの末梢に体温を運ぶのも、血液を介した直接の伝達であり、血液の流動性という性質がものを言っています。寒冷条件下では指先が冷たくなりやすい人がいますが、つまるところは熱の運搬役となる循環(血液循環)、とくに末梢血管における血流量(末梢循環)が少ないというのが原因となります。
 登山では、エネルギー(体を動かす元になる栄養素)と水分は切っても切り離せません。エネルギーは酸素によって代謝過程を経て、最終的にATP(アデノシン三リン酸)という物質になって利用され、水は体内環境(電解質濃度や酸塩基平衡)を一定に保つうえで不可欠です。生命体はエネルギーとともに、一定の電解質濃度と酸塩基の濃度を絶対条件としています。体は体内の調節を身体内の状態から見定めながら、微妙に行っていますが、その入り口には個人の生活習慣や人の意志が働いています。どのように水を飲み、どのように栄養補給を行えば生体は都合よく体の状態が整えられるのか、運動に有利なのかなど、そういった理解と実際の登山の実践に役立てられれば幸いに思います。別項の「登山と水分量のバランス」も参照ください。

 注)最小の生物:生物学的には、自ら代謝する能力を備えた個体を生物といい、細菌をさしますが、ウイルスという考えもあります。ウイルスは自家代謝装置を持っていませんが、ほかの細胞に寄生して、そこから環境と栄養素を得ることによって自分と同じ遺伝子を持つ「自己自身」(分子)を生成することができます。ウイルスは自家増殖の元である遺伝子を持ったタンパク質性の粒子だと定義されます。ちなみに、なぜウイルスががん(癌;腫瘍)の原因になるかについては、ウイルスが他の生体(これを宿主といいます)の細胞(宿主細胞)の核に侵入して、そこで宿主の細胞の遺伝子を自分の遺伝子に転換するため、がん性のウイルス細胞への置換が起こるからです。がんとは、本来自分の細胞であるにかかわらず、無制限に他の身体細胞や組織を押しのけて増殖する細胞から成る組織です。個体における細胞どうしの自己制限を取っ払って活動と増殖を我が物顔に行う結果です。

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 身体がどのような仕組みと働きを持っていて、登山などである強度の運動負荷を与えたとき、身体の中でどのような反応がおこっているかを見ていきましょう。
 

人体の成り立ち

1)細胞の構造と働き ―― 細胞を取り巻く環境
 体は、
 
細胞⊂組織⊂器官(臓器)⊂個体
という階層的な構造で成り立っています。細胞が集まって、一定の機能と細胞構造を備えた組織を作り、組織が独立した系統・形をなす器官(器官系;臓器とも呼びます)を形成し、臓器が集まって個体を構成します。
 臓器は上から脳(脳神経系)、肺(呼吸器系)、心臓(循環器系)、食道・胃・腸(消化器系)、腎臓・膀胱・尿道(腎・泌尿器系)、睾丸や卵巣など(生殖器系)、四肢と筋肉(運動器系)、そのほか血管系、感覚器系(眼・耳・鼻)、皮膚に分類されます。これらはすべて、1つの個体の都合に合わせて駆動されるわけであり、その組成を元から探るなら個体は細胞の集合体といえます。

(1) 細胞の構造
 ①細胞の内部:核(染色体、DNA)と細胞小器官(ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソソームなど)、および細胞質ゾル、細胞内液
 ②細胞を取り巻く環境:細胞の環境としての細胞外液(血液や消化液などを含み、血漿とほぼ等しいpH)
 ③生命の最小単位:生命を営むのは細胞(細菌との比較;別記)。代謝・呼吸などの生命活動、生体構成単位の実質
  。大きさは10~100μm(μm=1/100万m)、1個のヒトの個体で細胞数は60兆個ある。 
【解説】重要な部分なので、少し解説を加えておきましょう。
 細胞は、細胞自身の生命の維持のためと、もうひとつ、生体(個体)全体での役割を果たすための2つの機能を担っています。後者の場合が分化(特殊化)による機能です。例えば、個体のすべての細胞は同一の遺伝子情報を持っていますが、分化によって、それぞれ特異の働きをするように形を変え、働きもそれにつれて変わります。例えば、コラーゲンや硫酸コンドロイチン、膝関節の注射で使われるヒアルロン酸といった成分のほかに、軟骨と骨などは、それぞれ細胞が作り出して細胞の外に放出し、人体を構成する非細胞成分として形成されたものです。筋肉は筋細胞(筋線維ともいいます)という細胞ですが、筋肉と筋肉の間を埋める細胞間物質(間質)は細胞ではなく、生きた成分ではありません。そういった成分を細胞が生成しているわけです。これらを含めて細胞としての働きを担うのが、細胞の内部にある細胞小器官と呼ばれる装置です。
 最近よく聞く言葉に「幹(かん)細胞stem cell」がありますね。この言葉は本来、血液の分野で用いられたものです。血液の細胞成分として赤血球、白血球、血小板がありますが、これらの元になる細胞は同一で、それが幹細胞です。骨髄で作られますが、骨髄から順次血液に出るにつれて、それぞれの血液細胞に「分化」していきます。分化を促す因子としてサイトカインという分子(生理活性物質と総称されます)があり、これが作用してそれぞれの血液細胞に成熟していきます。
【補足】白血病
 理解を深めていただくために、ついでに追記します。白血病という病気は、白血球という血液細胞のがん(腫瘍)です。がんは細胞が、周辺の健全な細胞などのことには配慮なく、無制限に多く作られる病態だということは上に書きましたが、白血病も同じように白血球細胞が異常に増殖を起こす病気です。その際に、たくさん作られる血液細胞も、十分に成熟を遂げない段階での「未成熟な白血球細胞」だけなので、白血球の担うべき免疫機能が十分に果たせなくなります。血液の検査では白血球が正常の人(健康な人)よりも多くなりますが、以上のような理由から白血病患者は病原体に感染しやすくなります。
 また、がん(腫瘍)は遺伝子に異常が起こるため、正常の細胞のような増殖(周りを押しのけて、他の組織を侵食するような増殖はしないで、自制のきいた増殖をする)ができなくなります。遺伝子は細胞の中の核(図1参照)という部分の中に折りたたんだようにして組み込まれています。3種類の血液細胞のうち白血球だけが核を持っていますが、他の赤血球と血小板は核を持っていないため、核の異常による血液腫瘍を起こすのは白血球だけです。赤血球・血小板の腫瘍性増殖という病気はありません。

(2)細胞の機能
細胞の呼吸と代謝
 1つひとつの細胞は、息(呼吸)をし、栄養素を摂取して、それを細胞の再生(細胞分裂)と維持、活動に利用しています。それによって、①呼吸(酸素O
2を供給され、二酸化炭素CO2を出す=細胞呼吸)と②代謝(栄養素の分解と細胞成分などの合成)を行っています。
 酸素は、赤血球の中のヘモグロビン(Hb)という成分によって、体の各細胞にたえず運ばれつづけています。運ばれたあと、細胞外液(血液を含む、細胞の外側に分布する液で、細胞を満たす液である細胞内液に対します)を介して毛細血管から細胞中に取り込まれます。それと引き換えに、細胞内で行われた代謝の産物としての二酸化炭素や老廃物が、同様に細胞外液を介して毛細血管の中に渡されます。O
2とCO2の交換作用をガス交換と呼んでいますが、肺胞で行う O2とCO2の交換(ガス交換)である外呼吸に対して、体内で起こるこの呼吸を内呼吸とよんでいます。細胞はまさしく「呼吸をしている」わけです。
  
注)毛細血管:動脈と静脈との中間(いってみれば連絡部)にあり、動脈血が最終的に酸素や栄養素をすべて放出し切る場所で、血管の最も末端
    部に分布する血管です。動脈から静脈に切り替わる境目にあって、ここで血圧は最小=ゼロとなります。


 代謝は、糖質(デンプン)、脂質(脂肪)、タンパク質、およびビタミンと金属類など)を食事として摂取したあと、体内で消化酵素によって分解して、活動源(エネルギー源)、体の作り替え、その他の営みに充てる働きです。成分ごとのそれぞれの代謝経路があります。
 運動の活力源としてエネルギーを生み出す糖質代謝、またエネルギーの蓄積としての脂質代謝、生体成分の維持を担うタンパク質代謝です。エネルギー代謝は以上の3つの栄養素のどれからも行いますが、最初にエネルギー源として使われるのは糖質です。ただし、どの反応からも最終的には高エネルギー物質(ATP;アデノシン三リン酸)を作り出し、利用します。ATPは、代謝のほとんどの過程に利用され、また筋肉運動や、体成分の合成、熱の産生などに使われます。あらゆる生物で、ATPは共通の「エネルギー通貨」となっています。
 なお、ATPに変換されるエネルギー比率は、糖質(グルコース;日常いわれるブドウ糖のこと)4、脂質9、タンパク質4(kcal)ですから、脂質はエネルギーの貯蔵物質として効率がよく、そのためにためられるわけです(糖分をたくさん食べると肥満を起こすのは、それがエネルギー消費に向かわずに、体内に脂肪に変換して貯蔵されるためです)。タンパク質は多くを摂取したとしても、体内で使われるわけではなく、エネルギー源として糖質と同じ働きをしかせず、代謝産物(最終的には尿素)として排泄されます。
 糖質が最も能率のよいエネルギー成分ですが、食事によって供給された分(糖質は分解された後、最終的にグルコースとして血中に入りますが、膵臓が分泌するインスリンの作用で当面余剰なグルコースは肝臓にグリコーゲンに変えて貯蔵されます)は貯蔵型のグリコーゲンも含めて、体内にさほど多くため込んでおくことができません。食事で得たエネルギー源物質は、運動が続くと数時間後には底をつきます。その後は、脂質(脂肪)、体タンパク質がエネルギー源物質として使われます。
【補足】糖尿病
 関係があるので糖尿病という病態について補足しておきます。糖尿病には1型と2型がありますが、膵臓のランゲルハンス島のB(またはβ)細胞で作られるインスリンというホルモンが細胞の障害によって著しく少ないか、ほとんどなくなったために、血糖値(血液中に入ったグルコースの濃度)が下がらないのが1型糖尿病の基本病態です。インスリンは、食事摂取のあとに、炭水化物(糖質)の代謝産物であるグルコースを、肝臓に取り込んで血糖値を下げ、必要量に応じた適正な濃度に調節する作用を持つので、B細胞がなくなっている疾患では、血糖値が下がりません。
 1型糖尿病では高血糖が持続するため、高濃度となっている状態から腎臓から外に出そうとして、多量の糖分が尿とともに排泄されます。そのため、食後においては血糖値が逆に下がります。それを補うように、代替成分のタンパク質がエネルギー源物質として充当されるのです。こうして、体タンパク質(体を作っているタンパク質)が使われていくため、「やせ」が進んでいきます。


 



 


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2)細胞の生存環境としての細胞外液
 ヒト(人間)は自分で栄養素を作り出せない生物です。植物以外のほとんどの生物は自分で栄養素を作り出せないので、ほかの生物が作った栄養をもらわなければ、生きていけません。これらの生物を「従属栄養生物」と呼び、広範な生物界で「消費者」と呼びます。
 生活に必要な物資、例えば、漁をしたり農作物の収穫をしたりするなど、人間が生きていくうえでの食・住などの手段や生存環境を与えている世界以外に、ヒトを取り巻いて環境的な状況を構成する自然、物質的環境である「外部環境」があります。これに対して、以上に見てきたように、細胞の“生命線”となっている、細胞を取り巻く細胞外液を「内部環境」と呼びます。
細菌の生存環境
 ここで、最も小さな細胞であり、地上の最小の生命体(生物)である細菌を見てみましょう。最初に生物として海中に誕生し繁栄を誇った生物は、細菌の仲間だったとされています。バクテリアという呼ばれ方をすることもありますが、bacteria はbacteriumの複数形で、英語のカタカナ読みを当てているにすぎません。
 細菌は単一の細胞から成る単細胞生物です。その細胞の中には、核様体や細胞小器官があります。細菌も従属栄養生物であるため、繁殖し、子孫を残すために、ヒトやその他の生物に「感染」して、そこから栄養分を獲得することとなります。これが「病原体の感染」(ヒトにとっては感染症)の実態です。ヒトが地球か環境や他の生物らをさまざまに“強奪”しているように、細菌などの病原体も、ヒトの体内に侵入・寄生して栄養素を得、生存環境としているのです。これに対してヒトは、「免疫」という機能を発動して病原体の感染に対抗します(上述したので省略します)。
ヒトの細胞の内外
 細菌の大きさは、1μm(1/1000mm)前後です。これに対してヒトの細胞の大きさは10~100μmです。ウイルスはさらにその1/100程度の大きさです。
 多細胞生物では、体内の細胞は、細胞外液の中にいわば「漬かる」ようにして生存しています。これは、細菌において、周囲が水性であるのと同様に(細菌が栄養分や呼吸を行うのは、その周囲の水に溶けた水溶液を通して、必要な成分を摂取するのと酷似しています)、ヒトの生存環境も「細胞外液」という水です。細菌では外部の環境との浸透圧差や物理的な圧力に耐えるように細胞壁が備わっていますし、外からのl細胞内への影響が小さくなるような作りになっています。ヒトなどの高等生物ではこの役割を、細胞外液を調節することによって、ひとまとめにして行っています。
 細胞外液魚は海水魚、淡水魚の違いなく、細胞内のナトリウム(Naイオン)濃度はほぼ一定だといいます。塩水に生息するにもかかわらず、ヒトの場合も魚などとよく似通った体内の値です。この液性体内環境のことを、体液と呼びます。魚と類似し、また消化器官の形状から、ヒトは魚から進化したとされています。つまりは、ヒトは海から陸へ上がったのです。
【参考】海から陸へ
 ついでながら、人間には衝撃記憶というものが残っているという証拠があります。ヒトの原初的なトラウマでしょうか。人はいくらひどい喉の渇き(口渇)に見舞われていても、一口水を飲んだ後には、すぎさま水を拒絶する反応が起きるといいます。なぜでしょうか。それは、人は海=水から陸へ上がって水性環境と決別し、別途の条件を選択したからです。そのため、「溺水(おぼれ)」に極端な拒絶反応を示すのではないかと考えられます。
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 また、ヒトの細胞外液のpH(ピーエッチ)は血漿(血液)と同じで弱アルカリ性であり、7.35~7.45(7が中性)の狭い範囲に維持されています。生体はさまざまな酵素反応(化学反応)によって代謝が担われているため、酵素は、最適pH(至的pH)というものがあって、上の範囲になければ働かないからです。このpH条件のことを酸塩基平衡といって、微妙なバランスに維持されています。pHに関与するのがHCO
3-(炭酸水素イオン;重炭酸イオンともいう)やNa、Kなどのイオン(電解質)です。HCO3-は二酸化炭素(炭酸ガス)をもとに作られます。呼気として排出する二酸化炭素は余計な成分だとの認識を多くの方はお持ちだと思いますが、二酸化炭素も生体には欠かせないのです。
 電解質では、細胞の内外で成分が異なっていることに注意しましょう。細胞外の主要な陽イオンはNa+(ナトリウムイオン)、主要な陰イオンはCl-(塩化物イオン)、細胞内の主要な陽イオンは K+ (カリウムイオン)です。Na は食塩(NaCl;塩化ナトリウム)の形で摂取されますが、Na は細胞外に拡散・分布するのに反し、Cl は胃液にも多量に分布します(胃液はpH が 1~2 と強い塩酸=HCl が主成分です)。細胞内外のこのイオン組成状態は、ATP を使って絶えず能動的に行われています。神経と筋肉の細胞が、電気的伝導によって収縮をするのに、このイオン組成の落差(イオン勾配)が必要だからです。
 ついでながら、筋弛緩剤というのを聞いたことがあるでしょうか。間違って医師から投与されると、心臓の筋肉の収縮に問題を生じて、死亡してしまう薬剤です。このことで事件があった記憶がおありありでしょうか。カリウムを主成分とする薬物で、筋肉の細胞外の環境を変えるのです。


 



 

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.体の調節
 ここからが本題に入ります。前置きが長くなってしまいました。以下では、腎臓、ホルモンの調節機能と、登山において水、そして電解質が必要なことについてご紹介しましょう。

1)腎臓の働き
 上で見たように、細胞外液はいわばヒトにとって“生命線”なのです。
 
 
  細胞外液
 
 間質液(組織間液)   組織の間に分布するさまざまな液体や消化液
 脈管内液  血液 + リンパ液
   ※1)血液=血球(赤血球、白血球、血小板)+血漿(血清+凝固因子)
   ※2)細胞外液(20%)+細胞内液(40%)=体液(体重の約60%)。


 細胞外液は食事の直後などでは血液中と体内の液体とで、濃度や組成に一時的に違いが生じますが、すべての血液(血漿)と細胞外液の濃度・成分はほぼ一定に維持されます。このことをホメオスタシス(恒常性)といっています。
 血管外にある細胞外液は、「細胞外 →→ リンパ (液)/毛細血管→→ 静脈」の流れをとって、血液中に返されます。血液は循環する間にも、その中にある老廃物や二酸化炭素が除去されなければいけません。その血液の浄化や組成の調節を担っているのが、腎臓であり、二酸化炭素を排出するのが肺です。神経系やホルモン(内分泌系)が排出には関与しますが、非ガス性の物質の排泄に関しては腎臓だけです(ここでは神経系とホルモンの関与は省略します)。
 血液は体重の約1/13を占めるとされます。65kgの人では、5L(リットル)の血液があります。なお、身体の約2/3は水で、そのさらに2/3が細胞内(細胞内液)にあります。
 腎臓は臍(へそ)の少し上に左右にある臓器です。ご承知のとおり、腎臓は、①血液の濾過が主要な役割ですが、それに並行して、②体内の水分量、Na、Kなどの電解質成分の濃度調節、③ホルモンの分泌などを行っています。
 腎臓には、血液の濾過機能を担う腎小体(マルピギー小体)というのがあります。腎小体は糸球体(しきゅうたい)と尿細管(尿細管)から成っています。糸球体は0.5mmよりも小さな器官で、手まり状の毛細血管網を膜(ボウマン嚢)がおおって球形をしています。腎小体が片方の腎臓に100万個、両方では200万個あります。ここに、全血流量(血流)の20%が1回ごとの循環で送り込まれ、濾過を受けます。1日に大人で腎臓に流れ込む血液は800~1,000Lにも上るといわれます。
 糸球体で、血球やタンパク質を除いてほぼすべての成分が濾過されて、ボウマン腔にいったん出ます(これを糸球体における「濾過」とよんでいます)。この液を原尿または糸球体濾液(ろえき)といいます。しかし、この中には生体にとって有用な成分がたくさん含まれています。例えば、糖分やアミノ酸、そのほかNa、K、Clなどがあり、そこで水をはじめとするこれらの有用な成分を再び体内に取り戻す働きを発動します。この働きを再吸収といいます。グルコースやアミノ酸は本来、体外に捨てる意味はないので、すべて体中に取り戻されます(100%再吸収されるわけです)。水分も戻されますが、水分は体液調節上、重要なので何度も“計算”されて、最終的な排泄量が決まります。こうして最終的な老廃物と水分でできあがり、体外に捨てる尿(小便)となるのです。
 糖分やタンパク質(アミノ酸)が尿中に出ないのは、このような意味からです。そのため、過剰にとった栄養分、とくにご飯やパンなどに主に含まれる余った糖分(糖質)は、脂肪に変えられて脂肪細胞に蓄積されます。カロリー過剰の食生活を続けると肥満の原因となります。糖分の血中濃度が高かった場合や、腎臓の機能が低下した場合に、濾過機能に異常が起こって糖やタンパク質が尿中に出ることがあり、それぞれ(腎性)糖尿病、腎障害を呈します。
 一方、Na などは、例えば塩辛いものをたくさん食べたときなどには、体内にNaが多すぎることになるのですが、糖分のように体内に貯蔵する機構がないため、体液にたまります。水は容易に排泄されるのですが、Naなどの電解質は排泄に時間を要します。一方、体液のNa-K平衡(電解質)は一定でなければなりません。そのため、Na(塩分)を多量に摂取した場合には、体内のNa濃度を薄めるために多量の水を取らなければなりません。塩辛い食事をした後、喉の渇きを感じるのは、水が体内に不足していることを告げています。つまり、体内にある塩分に比例しただけの水分が体内に(飲水によって結果的にもたらされたということ)あることになります。水ぶくれのしたような体をした人は、おそらく脂肪が蓄積しているのと同時に、体内の水分量も多いということなのだろうと思います。それだけ、塩分の摂取量も多いのです。
 その結果、循環血液量が多くなり、心臓に負担をかける結果、高血圧などの病気や、心臓病になる可能性が指摘されています。
 このようなNa濃度との絡みで、一度、再吸収したNaは体内の濃度がちょうど適切であるように、再度、尿中に排泄されたり、再吸収されたりを繰り返しながら、体内の水分を主とする最適調節が行われています。再吸収の反対語を専門用語で分泌といいます。

 発汗で水分を失ったときの体内の状態を見てみましょう。発汗には種類があります。

 
●水分喪失型発汗⇒⇒⇒細胞外液のNa濃度上昇(脱水)
                     ↓   
                渇中枢(視床下部)の刺激
                     ↓ 
                Na排泄および飲水行動
                水分排泄制限(抗利尿ホルモン;ADH)
                     ↓
                  尿量の減少  
                     ↓
              Na濃度=体液のホメオスタシス維持


  
※この型の発汗では、総じて体内の体液の濃縮が起こるため、血液の粘度が高まり、血栓症を発症しやすく
   なる点に注意が必要です。
 ●塩分喪失型発汗
 
この型の発汗では、水分よりも塩分が多く失われます。登山ではこの型の脱水が原因で、足の痙攣などや、不測の場合には心臓の拍出機能に障害を生じることがあります。行動中に塩分も摂取する必要があります。よ く塩分だけをなめさせたりする行動が見られますが、登山中には水分が多量に失われています。塩分は体内では決まった濃度でしか体内には存在しないので、水分も塩分比で等分に摂取しなければならないわけです。 

【参考】動物の腎臓
 
家犬(いえいぬ)の多くが腎臓の病気で最期を遂げることが多いと聞きます。なぜなのかを考えます。その原因は、人間様と同じ食事を「ご馳走」として与えていることにありはしないでしょうか。
 人間は自分の生活環境の相当部分を加工し、造作し、操作することができます。雨風を避け、雨水をためる知能を発達させました。そればかりでなく、耕作技術も発達させましたし、塩田もやりました。つまり、人は水も食糧(食料)も塩などの電解質成分も、意のままに得ることができるようになり、それを遺伝子レベルにまで発達させていきました。その結果、塩(Na)を排泄する機能を身に付けたのです。それは、腎臓の発達とその機能の高度化として結実しました。ヒト以外の動物と比べると、とくに腎臓の発達がヒトで著しいといわれます。その分、移動性の犬(イヌ)などの動物も、ヒトには及ばない機能部分があるということです。
 そもそもの古来を想像してみるに、砂漠地方であったなら水は貴重であったでしょうから、そこに住み着いた動物たちには、一度取り込んだ水分を容易には外に捨てないような仕組みが備わっていったでしょう。また、塩分であったなら、日本列島の内陸部には塩の取れる土地はほとんどありませんから、内陸性の動物は塩分を排泄しにくいように進化していったことが考えられます。イヌは内陸性の動物で、すでにヒトが定住を始めたころより1万年以上前から共生が始まったといわれます。しかし、ヒトの歴史はもっと長く、その間に塩分の排泄にかかわる臓器(遺伝子レベルで体の形態に結実するその形を器質といいます)を発達させていったのです。
 ヒトではこうして当たり前のように備わった塩分排泄機能(腎臓のみならず脳下垂体と合わせて合同の機能として獲得していった)なのですが、イヌでは未発達な機能となっています。ゆえに、ヒトと同じ食事を与えると、塩分の排泄装置を持たないイヌは塩分を体内にため続けるので、当然ながら腎臓に無理を強いることとなりますし、血圧を上げるように状態が進むことは必至です。血圧を支配するのは神経系(副交感神経系)とともに腎臓なのです。腎臓からは血圧を制御する重要なホルモンが分泌されます。同時に腎臓からは、水分の排泄にかかわるホルモン(抗利尿ホルモン;ADH=バソプレッシン)も分泌されます。
 南アルプスの奥地には、「ベト場」という聞き慣れない場所があるといいます。そこは貴重にも塩分が多く含まれる土質から成り、その地帯に生息する動物たちが塩分を取るために集まっていくのです。奇妙な光景が以前、テレビで放映されましたが、普段はけっして平和な関係を築いているわけでもないイノシシ(猪)、シカ(鹿)などの大型動物たちが、そのベト場では平和裡に貴重な栄養素を分け合っているのです。貴重な資源だからといって、互いに醜い争いに訴える人間に比べて、節制をわきまえた動物たちの生態が夢物語のように映りました。塩分は基本的に貴重な生存物質だということを動物たちがわきまえた姿でした。資源はともに分け合うという、生存そのものをその上に置いた了解が成立していることが不思議でした。


 

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2)体内のNaと水分の関係
 ところで、体内の塩分(Na)は発汗や下痢、または嘔吐で水分とともに失われますし、塩辛い食事をすればNaが多量に体内に入ってきます。登山をして、激しく発汗をした場合を考えてみましょう。
 ここで、先に述べた点に関して再確認してほしいと思います。酸塩基平衡と電解質平衡です。人体はつねに同じpH を維持しなければ生命が保てないことと、その生命活動には十分な電解質が必要なことです。酸塩基平衡は主に呼吸から得られる二酸化炭素を素材に作られており、細胞内外の電解質平衡としてはNaイオンとKイオンが必要です。とはいえ、その過剰が健康に悪影響となる点も含めて、ここで学習します。
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 Naそのものは浸透圧を生じます。図5に示したように、ある膜(濾過膜;半透膜)を隔てて異なる水溶液が相接した場合、その中の水溶性成分(溶質)や水(溶媒)が移動して、両方が同じ濃度になろうとします。このとき水や溶質を移動させる力が浸透圧です。体内で最も主要な浸透圧成分は、Na(ナトリウム)です(ほかには血漿中に分布するアルブミンというタンパク質やグルコースなどがあります)。Naは水を引きつけるため、Naが体内に多いと、体液(体内水分)の量が増えます。しかし、むやみに水分量が増えると、これは循環血液量の増加から、心臓への負荷が増大しますし、細胞の大きさにも影響しますから、Na量の調節も腎臓がしなければなりません。ヒトの血液の塩分濃度は、生理食塩水の濃度と同じで、0.9%と決まっています(これは1リットル中に9グラムの食塩を含む溶液濃度です)。血をなめた経験がどなたにもあるでしょうが、血液はけっこう塩辛いものです。
 図8に示したように、発汗によって水分もそうですが、Naも失われます。体液比率と同じの場合を「等張性」、水分のより多い場合を「低張性」、少ない場合を「高張性」といいますが、発汗の生理的な意味は体温調節(熱の発散)ですから、通常は、低張性発汗の場合のほうがが多くなります。すなわち、塩分よりも水分のほうが比率からして多く失われるのです。これによって、体液のNa濃度が高くなります。その後は図8のような反応がおこって、体液のNa濃度は以前のレベルに回復します。
 一方、スポーツ生理学では、実験結果から、急激な運動をしたあと、水を摂取する場合に、意外にも、少しの飲水で渇水感が解消される、といわれています(『標準生理学』医学書院)。それは、多量の水を一度に飲む危険を予防するため、と考えられています。カ勝手な推測ですが、ヒトが陸上に上がって肺呼吸になって以来、水に対する恐怖が本能の本質としてあるのかもしれません。そんなわけでも、登山のような激しい運動中やその後は、欲している水分量に加えて、意志で強制飲水をするのがよいという理屈になります。
 ここで、抗利尿ホルモン(脳下垂体から分泌される)による水の排泄の抑制、さらにNaの排泄の促進を中心とした反応がおこり、体内の細胞外液の状態は脱水を解消する方向に向かいます。しかし、飲水行動が不十分だった場合、上に示した知見や、Naの排泄(つまり尿細管からの分泌)の促進には制約があります。尿に排泄できる不要物の分量はある範囲以上にできないのです(これを尿の濃縮能といいます)。この意味は、尿とは水に溶かした状態で物質を体外に排泄することを目ざしますが、溶かし込む濃度には限界があるため、多くの不要物・老廃物が体内にある場合は、それだけ多くの水分が必要だということです。すなわち、Naの排泄促進とはいえ、ある量の水分を必要とし、水分が少ない場合は体内から尿として出しようがない状態を作ってしまうことになります。しかも、登山は激しい代謝を伴っていますから、その面でも多くの水を必要としていると理解されます。
 これは、こんなことでわかります。故原眞先生が言っていたことを思い出します。「登山中に透明な尿が出たときは、身体の状態はいい」と。その意味は、尿が出る、しかも透明度の高い尿が出たときは、濃縮能に対して余裕がまだあること、Na=細胞外環境がいい状態にあること、といった点の理解が可能だからです。
 透明度の高い尿の排泄がない場合は、体はいよいよ体内に水をためはじめることとなります。登山中の手のむくみ(浮腫)は、そのことと関係があるように私は理解しています。生体は水に対して予防的な機構を生理的に備えていますし、また酸素やエネルギーの負債ということと同様に、水の負債もありうることだと思います。つまり、水分が不足した状態にしばらくからだを置いた場合、もとの状態に戻るまでには時間を要するということです。
事例
 以前にお話したことですが、登山を3つのグループに分かれてしてもらった実験を取り扱った結果から、生理学的にどうだったかについてご紹介しておきます(ずいぶん前のテレビで放映されました)。
 グループ1 : 飲水量を少なめに抑える
 グループ2 : 飲水量を欲しいだけとる
 グループ3 : 強制的に規定の量(かなり多めに)飲んでもらう
 その結果、生理的に、つまり正常なふだんの人体に近い、理想的な状態で登山ができたのは、グループ 3 だったということです。
 水に対して、砂漠の生物には乾燥=水の摂取が困難な条件下で生きながらえる能力が備わっています。ヒトにおいても、脱水に対する抵抗力があり、問題は起こらなくなっていますが、望ましいのは意識して多めに水を飲むということであり、その重要な点ががわかります。

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解答例

Q1摂取された水は、すべて小腸から大腸にかけての消化管で体内に吸収されて、血液の中に入ります(消化管の周囲には消化成分を血液に運ぶための毛細血管が無数に分布しています)。糖質、脂質、タンパク質で消化と吸収のされ方が異なりますが、いずれも肝臓を経て心臓まで到達し、そこから身体の各部に送り出されます。そのうちの1/5が腎臓を通って、濾過と成分の調節を受けて、体内をめぐり、必要な組織・細胞に取り込まれます。多すぎる飲水は、循環血液量の増大から心臓の負荷が増えます。
 なお、スポーツ飲料といわれる飲料水は、真水(無成分の水)の約25倍の吸収速度をもって体内、細胞に吸収されます。アフリカではコレラなどの下痢性の病気(原因は脱水です)で死亡する子どもが非常に多く、こうした飲料水があれば命が助かっていたといわれています。スポーツ飲料水がなかった場合は、水に塩と砂糖を溶かして間に合わせることができます。別項の「登山と水分のバランス」を参照してください。

Q2炭素(元素名C)を含む化学物質を「有機化合物」といいます。私たちの栄養素はタンパク質だけが窒素(N)を含む以外、糖分(専門用語では糖質)も脂肪(脂質)も炭素(C)、水素(H)、酸素(O)から成っています。血糖値とは、血液の中に含まれるグルコース(ブドウ糖)の濃度のことです。グルコースは最終的に細胞で利用される、最小単位となった糖成分です。呼気中のCは、グルコース(化学式はC6H12O6)が完全燃焼してATPが取り出されたときに、水とともに生じるもので、CO2として細胞から毛細血管中に排泄され、HCO3-の形(イオン)として肺まで運ばれて呼気中に排泄されます。興味深いことに、燃焼(酸素O2による合成反応=酸化)という現象が体内でおこっているわけです。急激な燃焼が物を燃やす燃焼ですが、体内ではそれがゆっくりと起こっています。口から入った食物のCが肺から排泄されるわけです。
Q3運動には無酸素運動と有酸素運動があります。無酸素運動は最大強度で運動を行った場合や、ちょっとした機敏な動きが要求される場合で、これを持続させうるのは普通の人では数分間です。無酸素運動では、糖分(グルコース)の分解で乳酸が生じるのですが、乳酸は酸性の物質であるため、pHを酸性にし、筋肉の収縮をするミオシンという物質の収縮を阻害し、たまると筋肉運動がそれ以上できなくなるわけです。有酸素運動は、それより強度の低い運動で、酸素と糖分の補給でずっと続けられます。有酸素運動では、エネルギー源物質として糖質がなくなった後、脂肪(脂質)が使われるます。ただし、脂肪の利用(燃焼)には、糖質の同時摂取が効果があるとされます。
Q4抗利尿ホルモンなどの作用によって、脱水状態に対する対抗措置として予防的に水が体内に余剰にため込まれたためと考えられます。特殊な因子として、高度(高さ)の影響があるかもしれません。危険因子、非常状態を体が感知して、体がそれに対応した結果だと理解されます。これは、急激な脱水状態と飲水量が少ないこと(さらに高度=低気圧)とが同時並行した結果、引き起こされた状態だと理解されます。強度の脱水に対しては、その解消後も尾を引きます。このむくみは、下山後、通常の生活に戻ってから、3日ほどの間に多量の排尿と、数キロの体重減少を伴って解消されていきます。
Q5山本正嘉さんの著書『登山の運動生理学百科』(東京新聞出版局)に書かれていますが、原理的には人体は栄養分(糖分)を供給しつづければ運動をずっと持続させることができるはずなのです。にもかかわらず、最後には足の痛み、関節の痛み、筋肉痛などが起こって、歩行が持続できなくなったといいます。人間は生身ですから、理論どおりにはいかなかったということのようです。この本はとてもいい本ですから、まだでしたら、ぜひご一読ください。
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