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                                                                           2014/08/15 我孫子山の会


 「実用書」編
登山:入門~基礎~上達編
1)野村仁:登山入門(ヤマケイ・テクニカル登山技術全書)、山と渓谷社、2007。
2)山登り入門サポートBook―山登りをはじめよう(NEKO MOOK)、2010。
3)文部省編:高みへのステップ、東洋館出版、1960。
4)日本山岳会編:登山の技術(上・下)、白水社、1981。
5)近藤信行:登山入門(岩波ジュニア新書)、1982。
6)小林泰彦:キャンプ・合宿・ハイキング(岩波ジュニア新書)、岩波書店、1985。
7)小野寺斉:中高年の安全登山入門、岩波書店、2012。


私たちの世代は、写真に示した2種類の本にたいへんお世話になった。『高みへのステップ』はハードカバーの上製本で、これだけのボリュームなのに、値段が1000円を切っていた。どちらもオーソドックスな教科書または学習参考書のスタイルをとっており、少々堅苦しいが、登山に必要なあらゆる項目が詳しく取り扱われている。テーマ別に組んだ参考書はそのころあまり出版されることはなかったが、この全書的な教科書スタイルは読者に安心感を与えた。全部学べば、とりあえず日本のほぼどの季節にも、どの山域の山にも登ることが許される許可証が下りた気がしたものだ。現在はこの種のマニュアル本は出版されておらず、昔日の感がある。

地形図(読図)
1)武井明信・武井正明:〈入試地理〉新地形図の読み方、三省堂、2009。
2)平塚晶人:〈入門講座〉2万5000分の1地図の読み方〈Be-pal Books〉、小学館、1998。
3)平塚晶人:山岳地形図と読図〈ヤマケイ・テクニックガイドブック〉、登山技術全書、山と渓谷社、2005。
4)今尾恵介:地形図の楽しい読み方、ヤマケイ山学選書、山と渓谷社、2014。

5)平塚晶人:2万5000分の1地図の読み方〈実践上達講座;Be-pal Books〉、小学館、2013。
6)梶谷耕一:利図の読み方がわかる本〈Outdoor Handbook〉、地球丸、2013。
7)村越真・宮内佐季子:最新読図のワークブック、山と渓谷社、2007。
8)村越真:道迷い遭難を防ぐ 最新読図術、山と渓谷社、2001。

登山においてルートファインディングの能力がどれほど重要であるかは、知っているようで、意外に知らないことが多い。なぜなら、普通の登山では、無雪期には登山道がきちんとたどっているため、道をあえて探さなくてすむからだ。ところが、雪山に入り、また一度道迷いをおこしてしまうと、ルートファインディング、つまり「読図(読道)」の能力がものを言う。写真3)は多面から地形図(地図)の正確な活用法について、非常に詳細に扱った1冊だ。図や写真も交えて、現地感覚を喚起しながら学ばせる。著者が独自の経験を基に構築・蓄積した豊かな知見を披瀝してくれる良書だ。

山岳気象
1)山本三郎:登山者のための気象学、山と渓谷社、1966。
2)飯田睦次郎:登山者のための最新気象学、山と渓谷社、1999。
3)飯田睦次郎:山の天気予報手帳、山と渓谷、
1982。
4)古川武彦・大木勇人:図解・気象学入門(ブルーバックス)、講談社、2011。
5)NHK放送文化研究所編:改訂版・気象ハンドブック
、NHK出版、1996。
6)猪熊隆之:山岳気象大全、山と渓谷社、2012

7)大塚竜蔵:やさしい天気図の見方手引き、日本気象協会、1968。
8)中村和郎:雲と風を読む(自然景観の読み方)、岩波書店、2007。

かつては「観天望気」という天候予測法があった。今もその方法は有効だが、あまり言われなくなった。単なる気象学も、気象観測・予測の基本を学ぶうえで必要だが、登山好きの人はとくに「登山者」または「山」が冠された気象学はぜひ一度は学んでおくべきであろう。上の中では6)の『山岳気象大全』がやはり最もすぐれており、気象学の最新の知見も踏まえて書かれている。著者はヒマラヤ登山者に衛星を使ったピンポイント天気予報を有償で提供し、その高い的中率でも有名だ。カラーの図・写真も豊富に使った、きれいな紙面に仕上がっている。

登山の医学、生理学、救急医学
1)松林公蔵監:登山の医学ハンドブック、杏林書院、2002。
2)J.A.ウィルカーソン/赤須孝之訳:登山の医学、東京新聞出版局、1990。
3)山本正嘉:登山の運動生理学百科、東京新聞出版局、2000。
4)日本山岳会医療委員会編:山の救急医療ハンドブック、山と渓谷社、2003。
5)藤原尚雄:新版・レスキュー・ハンドブック、山と渓谷社、2012。
6)小池荘介監:応急手当指導員のための普及マニュアル―救命講習指導要領、財・東京救急協会、2003。
7)『岳人』編集部編:GAKUJIN 快適登山ノート(岳人2007年5月号付録)、2007。


「生理学」は医学の一分野だが、なぜか「運動生理学」という領域の研究はきわめて少なく、スポーツの盛んな今日でも未発達なのが現状だ。ゆえに、登山の領域でも、医学的な研究を踏まえた業績や研究は少ない。著者は医師ではないが、著者がぎりぎり医学的な手法近くまで踏み出し、登山にかかわる広範な知見をまとめた、出色の1冊だ。著者自身が高所登山家の一面を負い、みずから被験者となって知見を蓄積していくという涙ぐましい便法もとっている。登山者の体について多くのことを学ばせてくれる1冊だ。惜しいことに、やはり生理学的、さらには生化学的な解説に深く及んでいないがゆえの満足感を欠く。2)は内容が高度で、非常に詳しい。

山の自然、山の植物
1)貝塚爽平・鎮西清高:日本の山(日本の自然2)、岩波書店、1986。
2)小疇尚:山を読む(自然景観の読み方)、岩波書店、2007。
3)日本勤労者山岳連盟編:登山と自然の科学、大月書店、2000。
4)大場秀章:森を読む(自然景観の読み方)、岩波書店、2007。
5)脇坂誠監:樹の本、財・サンワみどり基金、1985。
6)豊島襄:森林入門、八坂書房、2006。
7)西口親雄:アマチュア森林学のすすめ―ブナの森への招待、八坂書房、2003。
8)信州大学農学部森林科学研究会編:森林サイエンス、川辺書房、2010。
9)石井誠治:樹木ハカセになろう(岩波ジュニア新書)、岩波書店、2011。
10)西口親雄:ブナの森を楽しむ(岩波新書)、岩波書店、1996。
11)池内紀:森の紳士録(岩波新書)、岩波書店、2005。
12)小泉武栄:山の自然学(岩波新書)、岩波書店、1998。
13)辻井達一:湿原(中公新書)、1987。
14)阪口豊:尾瀬ヶ原の自然史(中公新書)、1989。
15)白簱史朗:尾瀬―その美しき自然、大和書房、1984。




山好きの者は学ぶべき中身がありすぎて、どこかで手を抜かざるをえない。その1つが、山の自然、とくに造山学、地質学的な領域だ。ここをわざわざ学ぶということを周囲の人からも聞いたことがない。しかし、赤石山脈だけでも知識をものにするだけで、山の楽しさはそれまでと違ってこよう。山の自然、生態系を学ぶには尾瀬が欠かせない。尾瀬に入る場合は、湿原、泥炭層の生成史の基礎知識が必須であるし、同時にミズゴケなどの役割や多数の花々の知識も加えたい。


         
            
登山技術:上級編
1)遠藤晴行編:アルパインクライミング、山と渓谷社、2001。
2)遠藤晴行:ピッケル・アイゼンワーク、山と渓谷社、1998。
3)保科雅則:アルパインクライミング、山と渓谷社、1997。

4)菊地敏之:ハイグレード登山技術、山と渓谷社、2007。
5)菊地敏之:最新クライミング技術、山と渓谷社、2003。
6)菊地敏之:最新アルパインクライミング、東京新聞出版局、2006。
7)日本勤労者山岳連盟編:岩登りの確保技術、日本勤労者山岳連盟、1993。


写真は菊地敏之さんの三部作の1冊だ。細部にしつこいほどこだわった中身となっている。他の山岳ガイドさんの著したガイド集とどこか趣や細部を異にしている。その細かな筆致は、菊地さんが山岳ガイドになる前に山岳関係の出版社で編集の仕事をしていたというから、納得だ。同業者の私は、菊地さんが山以外でもいい仕事をしてこられたことを思う。菊地さんとは一度、正月の北岳を目ざした池山吊尾根で遭遇した。ひと通り初心から学ぶなら3)がお勧め(絶版)。

登山の安全と山岳レスキュー
1)ピット・シューベルト/黒沢孝夫:生と死の分岐点―山の遭難に学ぶ安全と危険、山と渓谷社、1996。
2)ピット・シューベルト/黒沢孝夫:続・生と死の分岐点―岩と雪の世界における安全と危険、山と渓谷社、1996

3)渡邊輝男:セルフレスキュー(ヤマケイ・テクニカルブック 登山技術全書)、山と渓谷社、2007。
4)堤信夫:全図解・レスキューテクニック〈初級編〉、山と渓谷社、2006。
5)山岸尚将:教科書になかった登山術―クライミングを楽しむための45の知恵、東京新聞、2010。
6)遠藤由加:ロッククライミング・タクティクス50、山と渓谷社、1998。



左は4)、右は3〉。どちらも初心者向けにわかりやすく、かつ具体的に書かれている。目的は同じだが、方法や操作法が著者の個性を反映してわずかに異なっている点が面白い。4)の著者、堤氏はNHKのグレートサミッツのガイドも手がけるほどの実力者だ。その右は『生と死の分岐点』の続編。アルパインクライミングでは、わずかのミスが死につながるおそれのあることを細かく写真も交え、具体的な事例を示しながら解説している。クライマーの盲点ともいうべき部分を徹底的に追究している。本番の岩登りを志向する人には、どれも必読といえる。

山岳遭難~ドキュメント
1)羽根田治:ドキュメント 気象遭難、山と渓谷社、2005。
2)阿部幹雄:ドキュメント 雪崩遭難、山と渓谷社、2003。
3)柏澄子:ドキュメント 山の突然死、山と渓谷社、2008。
4)羽根田治:ドキュメント 道迷い遭難、山と渓谷社、2006。
5)羽根田治:ドキュメント 滑落遭難、山と渓谷社、2008。
6)羽根田治:生還―山岳遭難からの救出、山と渓谷社、2012。
7)船木上総:凍る体―低体温症の恐怖、山と渓谷社、2013。

8)羽根田治:山の遭難―あなたの山登りは大丈夫か、平凡社、2010。

羽根田さんという方は、登山者が陥りやすい欠陥に着眼して、いくつかの「遭難」事例集として、考察を加えて、その方面の著作物を出版されている。他人のことだから、遭難事故を起こしたって知らない素振りをしていればいいではないかと思ってみたりするが、実は羽根田さんという方は、その文章からは心のやさしい人のようだいうことが想像される。彼はその反面として、ロープの結び方・使い方の本なども出している。ほかに山岳遭難の場面、原因別に類似のシリーズとして出版されている。惜しい点は、1つの事例に深入りしすぎて、扱っている事例が少ない点だ。

山岳ルート集
1)遠藤晴行編:アルパインクライミング、山と渓谷社、2001。
2)山と渓谷社編:日本のクラシックルート集―アルパインクライミングルート集、山と渓谷社、1997。
3)中村成勝編:新版・日本雪山登山ルート集、山と渓谷社、2006。
4)廣川健太郎編:チャレンジ! アルパインクライミング、東京新聞出版局、2003。


1)には、基本的な技術・要領だけでなく、半分のページを充ててお勧めのルートを扱っている。3)には同じ編者による旧版もある。過去から今日まで人気の雪山ルートが、行路の上の写真を添えて懇切に解説されている。雪山の好きな者には、見るだけでも雪山の醍醐味が伝わってきて、胸がワクワクするような楽しさがある。2)は雪山だけでないバリエーション登山を志向する人には、必須の1冊と思われる。

雪山:雪崩編
1)北海道雪崩事故防止研究会編:最新 雪崩学入門、山と渓谷社、1996。
2)北海道雪崩事故防止研究会編:決定版 雪崩学、山と渓谷社、2002。
3)新田隆三:雪崩の世界から、古今書院、1995。
4)D.マックラング・P.シアラー/日本雪崩ネットワーク訳:雪崩ハンドブック、東京新聞出版局、2007。

雪崩には基本的に、複数の積雪層のうちのある層と層との結合(付着)の性質、逆からいうなら剥離性が関係している。2)でそのことを初めて知った。厳冬期にも、無風の晴天下で雪面の変化がおこっており、それが雪崩に関係するなど、予想外の現象が科学的に解説されている。なにげない雪の面の下に潜む危険に目を開かせてくれる内容だ。総合的に広く学ぶには、4)が充実している。2)を勧めたい。

山名、山岳(山)情報、その他
1)徳久球雄編:コンサイス 日本山名辞典、三省堂、1979。
2)日本山岳会編:新日本山岳誌、ナカニシヤ書店、2005。
3)大内尚樹ほか編:山の用語なんでも事典、山と渓谷社、1984。

  

山の花の名前を知らないで山の花が好きだと言ってのける人が信用できないのと同じように、山のさまざまな専門用語を知らないで山好きを自称する人もどうかと思う。山のそういった専門用語について書かれた「事典」が、左の本だ。小さな本だが、表紙から想像できないほど、その中身はよく書かれている。用語のもれは少なく、語彙も豊富に扱っている。右の2冊は山(岳)名の解説辞典だ。山名の数はコンサイスのほうが多い。残念ながら、『日本山岳誌』は「劒岳」を「剣岳」と誤用している点などが、若干気になった。


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