体力維持(保存)の勧め


2014/07/31 我孫子山の会育成講習(講師:OT)

 体力は経年と共に衰えていくといわれています。ドイツ人のルーの法則とやらで、「筋肉は使わないと萎縮し」、「適度に使うと太く肥大し」、「過度に使い過ぎると障害を起こし戻らなくなる」ともいわれています。介護予防や生活自立支援などを対象にしたものではなく、当山の会会員の平均年齢と登山という過酷な運動を目的としていることを考慮して、獲得した体力を保存し、必要としている体力を維持するための話を進めてみましょう。
        本当に経年・加齢で体力は衰えるのか? 実験論文から検証する。

1.論文から
 〇論文タイトル : 中高齢者における運動実施の効果
 〇実施者 : 石川県立看護大学 花岡美智子
 〇実験時期 : 2000年9月~2002年10月(足掛け3年)
 〇対象者 : 53人中全行程修了者24人(男66.5歳、女63.9歳)
 〇運動プログラム : Ⅰ期を2ヶ月として8回 → 8回×5期=40回
  ※ウォーキング、ストレッチ、エアロビスク、腕立て伏せ、上体起こし、スクワット、膝関節伸展、股関節屈曲
   を組み合わせて80分運動を行ったあと、測定
 〇測定項目 : 握力、上体起こし、長座位体前屈、閉眼片足立ちを合わせて、6分間歩行
 〇結果考察 : 柔軟性の長座位体前屈だけが改善し、他の4項目(筋力、持久力、平衡性等)は減少した。

2.体力
 体力は大きく2つに分けられる。
 1) 防衛体力 : 体温調節、病気に対する免疫力、ストレスに対する抵抗力
 2)行動体力 : 歩く・走る・投げる・跳ぶ等の運動力
  ①筋力―持ち上げる、掴む、押す等の動作
  ②瞬発力―投げる、打つ、跳ぶ等の動作
  ③筋持久力―歩き持ち続ける、繰り返し持ち上げる
  ④全身持久力―運動し続けるときの全身の力、諸々の機能力
  ⑤平衡性―平衡感覚に基づいた調整力
  ⑥敏捷性―自分の思うように体を動かす力
  ⑦柔軟性―体を曲げる・反らす等の関節の弾力性

          

筋肉の種類
 人体には400以上の筋肉があるが、のように分類される。

表 筋肉の分類 
 1)随意筋  ①骨格筋  速筋、中間筋、遅筋から成り手足を動かす
 2)不随意筋  ②平滑筋  血管、気管、腸管、胃、膀胱、子宮等の臓器璧
 ③心筋  心臓の構成筋
 
            
 通常、随意筋はトレーニングで鍛えられ、不随筋は鍛えられないといわれるが、不随筋もトレーニングで改善できると思われる。

基礎体力
 ① 心肺機能 : 全身の持久力
 ② 筋力 : パワー
 ③ 筋持久力 : 長時間運動し続ける力
 ④ 柔軟性 : 関節の可動域
 ⑤ 調整力 : 巧緻性・協応性・平衡性
 ⑥ 敏捷性
 ⑦ 瞬発力 
  重い荷物を背負って重力に逆らって長い時間にわたり登り下りする登山・ハイキングを目的に体力の維持・
 向上を図ろうとすれば、まず第1に「1)心肺機能」の鍛錬が必要。
  ルーの法則で「筋肉は使わないと退化して減」り、心臓も肺臓もまた筋肉の一種だから使わないと衰える。
 第2が「2)筋力」と「3)筋持久力」の鍛錬。

 
 1.心肺機能

  ①心臓 : 血液量は体重の約8%(1/13)を占め、約1分で体内を一巡する
   心臓の血液拍出能力(30歳以下男性平均)    安静時―5リットル/分
                        速足歩行時―10リットル/分
                        最大心拍数時―20リットル/分
   裕福・有閑・怠惰な生活習慣を続けていると、予備力となっている最大心拍数の20リットルを簡単に出せ
  なくなる。
   例えば、安静時の予備力=20-5=15リットル
  ②肺臓
   肺臓器もまた呼吸と肺活量を駆使し、心臓と連携して血液への酸素供給量を確保する。肺活量の低下
  は酸素摂取量の減少をもたらす。

 2.筋力と筋持久力
  随意的に手足を動かす骨格筋(速筋、中間筋、遅筋)なので、ルーの法則に従って、「適度に使えば太く肥
 大する」。
  骨格筋の能力 : 筋力は筋肉の断面積×6kg/? (個人差は少ない)
  
トレーニング
 1)無酸素運動 
  全力で走る、跳ぶ、持ち上げる等の、主に速筋(白筋)を使う運動。主に糖質を燃焼させる嫌気的運動で、
  乳酸を生成し易い。
 2)有酸素運動
  歩く、ジョギング等の、主に遅筋(赤筋)を使う持続的な運動。主に脂肪を燃焼させる好気的運動で、乳酸の
 発生が少ない。遅筋は酸素とエネルギー源がある限り運動を続けられる性質をもち、心肺機能の向上が関与
 する。
 3)トレーニングの原則または負荷の原則
 ① 最大筋力の20%以下 : 筋力の低下
 ② 最大筋力の20~30% : 筋力の維持
 ③ 最大筋力の40~50% : 筋力の増強
 ④ 最大筋力の50%以上 : 筋肉を増強肥大
  〈超回復の原理〉
    損傷を受けた筋肉線維はその負荷に負けない筋繊維を再生する。
    ⇒効率的な筋持久力の維持向上にはトレーニングの強度を上げ(40~50%)、さらに反復回数を多く
     することが肝心。
 4)基礎代謝   
  生きているだけで熱量約1500kcal(Cal)前後( 1800~2200kcal/日 )を生じる。これは基礎代謝によるもの
 で、基礎代謝量は全消費熱量の70%を占め、通常の生活では運動や食事のための熱量は全消費量の30%
 程度。
  基礎代謝熱量は筋肉の増加で高まる。筋肉量を増やすと、肥満になりにくい。
 5)筋肉量
   筋肉量=体重(Ⅰ-体脂肪率)÷2
  筋肉量の60%は臀部、大腿、下腿にある。この部位の筋肉は加齢により簡単に減少し、筋肉量や筋力が失
   わる。その結果、歩行が困難になり、バランス感覚が悪くなり、転倒の原因になりる。

トレーニングの効用
 1)心肺機能の向上
  心肺機能が向上すると、酸素供給量の増大、体温が高くなる、循環器・臓器の活発化、自律神経のバランス
 向上、病原菌やストレスへの抵抗力向上、負荷に対する心拍数の減少、収縮期血圧の低下、善玉コレステロ
 ール(HDL)の増加・・・などの効果がある。
 2)筋肉量の増加
  筋肉量が増加すると、脂肪の消費が多くなる、基礎代謝の増加、酸素摂取の高率化、体形がスリムになる、
 骨密度の増加(骨折の減少)・・・などの効果がある。
 
お勧めトレーニング
 1)日常生活での活発な動作に努めること
 2)例:速歩きとジョギングの混合、階段の上り下り、月に2、3度の軽登山
 3)断続的でも継続すること
 4)強いトレーニングの後は休養日を設けること(損耗した微細筋繊維の再生と、疲労物質の乳酸の吸収・排  出)
 5)運動の危険性(障害発生)やデメリットより、運動した方のメリットの方が大きいこと
 6)「頑張り過ぎる」は危険でも「頑張ること」は大切
 
 参考文献
 1)花岡美智子:中高齢者における運動実施の効果。
 2)日本ポリステック医学協会:運動のすすめ」、「体力維持のすすめ」、「加齢で体力が低下する理由と低下を防ぐ方法」、
 「筋力・体力のトレーニング」その他。


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