2014/08 我孫子山の会・育成係
1.2009年7月中旬の北海道大雪山系・トムラウシ山登山における遭難事故の教訓 1)多数の死亡者 ツアーのガイドを含めて15名中8名が死亡した。10~20年に一度の大量山岳遭難事故。 2)原因 症がおきるという自覚が、隊列全体(ガイドも含めて)になかった。 ① 亜高所(2000m前後)・・低温(推定最低気温は4℃)で、夏なのに日本アルプス級の厳しさ では、この時期(盛夏前の7月)に山岳地帯の最低気温が5℃を下回ることさえある。 ② 強風下・・風速は15~20m/秒で台風並み(雨量は少なかった)。向かいの15m/秒の風では、無風時に 比べて5割以上増しの体力消費が起こる。 ③ 雨天・・ゴアテックスのカッパ(雨具)だったが、下に着込んだ衣類が薄かった。肌着が汗で濡れ、濡 れた肌着が熱伝導で体温を奪った。 ④ 吹きさらしの地形+残雪 ① ツアー登山:判断などもガイドにおまかせのうえ、体調管理の自主性を欠いていた。 ② 高齢者が多数・・60歳前後(30歳代のガイド~最高齢者は68歳) ③ 経験のレベルの問題・・ハイキングの経験は相当にあったが、厳冬期を経験していない。 ④ 必要栄養価を補給していなかった(この登山では2,500~3,000kcalは必要)。 ⑤ 衣類を持っていたが、それらは最後までザックに入ったままだった。 ① 暴風雨中にもかかわらず登山を実施した(避難小屋利用およびツアー計画の矛盾)。 ② 多人数登山で、隊列が乱れた:隊員のぐあいが悪くなるごとに停止が繰り返され、隊列はバラバラに分か れた。行動停止、待機が体温を奪った。 ③ ビバーク用具は不十分ながら持っていたが、一切使用しなかった。 ④ 引き返す選択、逃げ道(エスケープルート)の選択を考慮しなかった。 ⑤ 危機管理の意識がなかった(自分たちにどういうことがおきているかを知りようがなかった)。
2.低体温症とは 【定義】 寒冷にさらされてから6時間以内におこる。発症後の対応が遅れると、数時間で死亡する。 1)低体温症を引き起こす要因 ① 寒さ + 強風 ② 濡れ ③ 疲労 + 栄養(エネルギー)不足 ④ 個人差:体型(小柄な人ほどなりやすい⇒子ども・女性)、平常の運動量(トレーニング)、男女、年齢 2)低体温症の症状 ① 35℃:歩き方がよろよろする、震え(振戦)、心拍数の増加、血圧上昇 ② 34℃:(震えが止まる)ろれつが回らなくなり、奇声を吐くなどの行為、眠気 ③ 33~32℃以下:心拍数の減少、血圧低下、不整脈、変調呼吸、意識の異常 ① まず、低体温症をおこす環境にいることを早く自覚する。⇒早めに下記の対応をする。 ② 寒さを避け、防寒処置をとる。 ・持っている衣類を着込む。濡れていても、着込むほうが体温の消耗が防げる。 ・ビバーク態勢に入り、寒さに身をさらさない。 ・ツェルト、個人用のビバークシート、非常用のコンロなどを携帯する。 ③ 濡れを防ぐ:ゴアテックスの雨具を着る(稜線上や高所では早めに雨具を着る)。 ④ 早めの対応を:「寒気」がするのを感じるより前に対応する。低体温症になってしまったら、気力・意識 が変調をきたし、対応不能となる(一酸化炭素中毒に似る)。 ⑤ 栄養補給の励行:「行動を停止した場合(休憩中)は、たえず食べる」というのが登山技術。厳しい環境 下、厳しい登山であるほど、栄養補給を頻繁に、多量に行う。 ① 体温を温める:濡れた衣類を脱がせて、着替えさせる。衣類などでおおう、湯たんぽをあてる、温湯を飲 ませる、など。 ③ 心配蘇生法:呼吸が止まったら開始する。温めながら、口-口呼吸で鼻をつまんで息を吹き込みながら、 もう1人が「みぞおち」の上の胸郭を強く圧迫する(胸郭圧迫心臓マッサージ)。 付)トムラウシ山岳遭難事故 調査報告書(日本山岳ガイド協会) |