山の装備

   登山の装備はどう考えればよいか


■確認事項
 1)装備は登る山によって一律ではありえない。
 2)基本装備は重なり合う場合があるが、登る山・登山の種類でほぼ規定される。
 3)それゆえ、装備の選択に当たっては、まず登る山の種類を考慮すべきである。
 4)山行のレベルが上がるほどに、装備は複雑になり、かさばり、重くなっていく。
 5)装備は山行のレベルが上がるごとに、使い方が特殊化し、細かな知識が必要となる。

     

1.山行による装備の選択

1)個人装備を共同装備
 山行(登山、山登り)に使う装備には、①個人の装備(個人装備)と②共同の装備(共同装備)の2つがあります。個人装備は衣類・ザック・靴など個々人にかかわるものであって、各自が購入し、そろえなければなりません。共同装備は、テントなどのように山行者全員に関係するもので、その多くを会が保有しています。コッヘル(鍋)、ザイルやコンロなど、会で保有するのと、個人で持っているののどちらもがあります。
詳細は装備表一覧参照。

2)山行に必要な装備とは
 では、山行を行うにあたって、どのような装備をそろえればよいか、ということになりますが、個人装備も、共同装備も、さほど単純ではありません。登山に使う装備は、できるだけ少ない、軽量なもので大きな効果を発揮するものであるほうが有利です。個々人の身体能力はどんなに大きくても限られていますから、当然のことといえます。素材などで良質なものが、次々と開発、改善されています。
※だからといって、最小限を持てばよいかというと、それは誤りです。その季節に、その山域で最も厳しいと予想される気象条件に対応できるだけの装備が含められるべき、というのが装備を考えるときの基本です。一方、装備を持ちすぎると、体力のむだな消耗がおこりますから、「必要度」の判断には慎重を要します。体力の消耗が大きいと、危険からの距離が大きくなりますし、山行の喜びが小さくもなります。かといって、小屋など人工的な施設・環境に依存しすぎた山行は、満足度を高めないことがあります。
 ところで、山の高さや厳しさによって、求められる身体・判断能力、経験などは変わってきますので、どのような山行を行うのかによって、装備そのものが異なってきます。山での安全確保や自然条件への適用という面における装備の役割です。対象とする山の山行を行うにあたって、さまざまな要件の1つとしての装備ですから、経験や身体能力などと並ぶ重要な要素となります。

 そこで、その前に、どのような山行を行うのか、したいのか、さらにはもっと原初的に山に何を求めるか、ということを、自分自身への了解事項として認識し、また決めることが、必要な装備類を決めるうえでの前提となります。いいかえると、(山に求める「意義」という前提はおくとして)どのような山行をする、もしくはしたいから、どのような装備が必要か、というところから、装備のことは考えていく必要があります。
下で詳しく見ていきますが、どのような山行であるかは、山行を行う①季節、②高さ(標高)、③ルート(経路、行路)、④登り方などによって異なってきます。これらの条件を組み合わせて、便宜的にハイキング、軽登山、重登山、バリエーション登山や、無雪期の山行と雪山山行などのジャンル(種類)に区分けします。山の花(高山植物)が好きだという方は、開花の時期に合わせて山に行けばよいでしょうし、自然の清楚さや厳しさをそのまま味わいたいという方には、晩秋から冬にかけての山が似合っています。

 装備類にも、山行がジャンル別に分けられるような、ある程度の区分けができます。多くの山行のジャンルに汎用のできる装備はありますが、できるだけそれぞれで使い分けるのが、その装備の特徴を引き出し、長持ちもさせるコツですし、特化した機能に合わせた、体力のむだな消耗を防ぐ方途でもあります。
 以上の了解事項をもとに、山行にはどのようなジャンルがあり、また本会の会員である場合には、どのようなジャンルの山行が可能かというところからお話ししなければなりません。しかるのち、その範囲の山行のジャンルの中から各自が選ぶ山行のジャンルに合わせて、めいめいが装備をそろえていくというのが経済的であり、実際的です。各自で希望の山行のジャンルを探してください。ただし、山は甘くないということは銘記しておいていただきたいと思います。本会が、新入会者の方々の山に対する関心を少しでも強め、また山行のレベルを高めていくのにいくらかでもお役に立てば幸いです。
※本会はボランティア団体ではありません。会員が共通の目的に向かって協力し合い、結果として、それぞれの会員に、見合った利益が分配される仕組みとなっています。協同(協同)行為、共同運営を目指します。

   

2.山行にはどんなジャンルや側面があるか
山行は、山行に要する日数、形態(宿泊かテント泊かなど)、ルート、季節、また対象(山そのもの)などといった要素に対応して、いくつかのジャンルの山行に分類できます。そのなかで、山行を決める最も大きな要素は、①標高、②高距(標高差)、③季節、および④ルート(経路)でしょう。

1) 日数による分類
 ①日帰り山行
 ②宿泊山行
  ・小屋泊まり山行
  ・テント泊山行
※上でご説明したように、本会では一貫してテント泊山行を行ってきました。ただし、近年、会員の高齢化が進んで体力の低下から、小屋泊山行の導入の必要性も問題となっています。

2) 実施主体による山行の種類
 ①会山行:本会が「年間山行計画」として年度の初めに立案・提示する対象・日程をふまえて実施するもの。基本的には会員はどの山行にも参加することができる。リーダー・サブ(副)リーダーを置く。
 ②個人山行:会山行以外に、会員個々人の発意・都合で計画・実施する山行。会員どうしだけによる個人山行に対しては、会は一定の義務(事前・事後の報告義務)を課している。

3) 山行内容・登り方による山行の種類
 運動負荷の程度と危険度(冒険度)の2つのパラメーターでみた山行の類型といえる。
 ①ハイキング:最も軽い山行で、運動負荷も少ない。標高差はせいぜい1000mぐらいまでの、奥多摩・奥秩 父程度までの山行をさす(個人によってその意味は多少は異なる)。
 ②軽登山:「登山」に属するが、運動負荷が比較的軽いもの。夏の奥秩父や北八ツの山行くらいまで。
 ③重登山:運動負荷がある程度以上に大きいもの。南北アルプス、八ケ岳や奥秩父以上の山の山行。通常、無雪期の、体力相当程度の体力を要する山行をさし、厳冬期と残雪期の山行は別に扱われることが多い。この山行のジャンルは、あまりいわれなくなっている。
 ※縦走は山行形態の1つとしての位置を占めるが、登攀は高距や標高にかかわりなくいう登り方をさすので、ここに配置するのは好ましくない。英語では、hiking と mountaineering の2つに大別され、「登山」という場合は後者をさす。これ以外に climbing (クライミング)という領域があり、日本語では「登攀」と訳され、この3つのジャンルで山行が整理されることが多くなっている。フリークライミング、アルパインクライミングなどのジャンルが、日本にも浸透してきている。
・縦走---尾根を連ねて歩く山行様式。通常、日を重ね、長時間歩くもので、体力を要する。
・登攀---勾配の大きな、登高が加わる山行様式。技術・体力・経験を要する。冒険性が高い。
④スキー山行:会では行っていないが、希望者はある。最近、スノーシューズ山行が出てきている。

4) 季節による山行の種類
 ①春季(4~6月):残雪~雪解け、芽吹き~新緑、ヤマザクラ・ツツジなどや山菜類
 ②夏季(7~9月):萌えいずる緑、高山植物(花)、涼風
 ③秋季(10~11月):紅葉~落ち葉、静かな山
 ④冬季(12~3月):有雪期と部分的に重なる時季で、寒さ(低温)、季節風など
 ※ただし、山の高さや山域によって、単純な季節分けができないときがある。例えば4月の尾瀬で、急に真冬に逆戻りすることがある。低地と異なり、山は冬季(冬の期間)が長い。

5) 山域(地域)による山行の種類
 (1)本会で行く山域
 ①関東周辺:
 ・奥多摩・奥武蔵・奥秩父などの山(中央線沿いの山を含む)
 ・奥日光・奥足尾などの山(最高峰は奥白根山)
 ・那須連山
 ・富士山とその周辺の山々(天子山地、道志山地、愛鷹山地など)
 ・妙義山塊、赤城山など
 ②南アルプス:2500~3000m超で、赤石山脈(甲斐駒ケ岳~イザルガ岳;日本で最大)が主脈
 ・甲斐駒ケ岳・鳳凰三山(南アルプスの前衛峰とされる)
 ・白峰三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)
 ・塩見岳(南アルプスの中央)
 ・荒川三山(前岳・中岳・東岳---東岳は「悪沢岳」の別名で有名)
 ・聖岳・兎岳・大河内岳・光岳など(南のイザルガ岳はハイマツの南限)
 ・笊ケ岳・八紘嶺など、南アルプス南部の前衛の山
 ・その他:南アルプスの南部の山々
 ③北アルプス:2500~3000m超で、飛騨山脈。穂高岳、槍ケ岳、白馬岳、立山など
 ・乗鞍岳(独立峰)
 ・穂高連峰(焼岳~槍ケ岳と飛騨側の山脈+いわゆる「裏銀座」)
 ・立山連峰(立山・劔岳・薬師岳など)
 ・常念山地(いわゆる「表銀座」を擁する、蝶ケ岳から餓鬼岳まで)
 ・後立山連峰(最北の犬ケ岳~針ノ木峠;立山連峰から黒部川を隔てて長野側の山脈)
 ・白山
 ・その他
 ④八ケ岳:2000~2900m。赤岳、阿弥陀ケ岳、硫黄岳(蓼科山)など
 ⑤中央アルプス:2000~2900m余で、木曽山脈が主脈。木曽駒ケ岳、空木岳などと御嶽山
 ⑥上信越の山:谷川連峰、越後山脈、三国山脈、飯豊・朝日山地など
 ⑦南会津・尾瀬
 ⑧その他:妙高山地、志賀山地、など

(2)本会であまり行ってない山域
 今後、対象となりうるものと考えてよい。
 ・北海道
 ・東北:白神山地、岩木山、岩手山、早池峰山、栗駒山など
 ・中四国:四国山脈(石鎚山・剣山)、中国山地(大山)
 ・九州

(3)海外の山

                       ページトップへ
    

3.装備のこと
 1) 基本的な個人装備
 個人の装備として不可欠なのは、大まかには①衣類(+雨具)、②靴、③ザックの3つ。装備はどれも基本的に消耗品だとの認識が必要です(ピッケルとアイゼン、寝袋は別)。

 (1) 衣類
 ・下着:半袖・長袖
 ・中着:シャツ(長袖のカッターシャツ)、マイクロフリース着など
 ・上着:毛糸(ウール)着、フリース着
 ・風除け(ヤッケ、ウインドブレーカー)
 ・雨具(上下):ゴアテックス仕込み
 ・靴下
 ・手袋(季節による)
 ①下着は化繊(冬は毛で可)で、速乾性であることが条件(綿製品はぜったい不可)。
 ②中着付近は重ね着(レイヤー系layer systemなどといわれる)できるものがよい(調節がきく)。
 ③季節、状態(気温・風・湿度)に合わせて、半袖と長袖を使い分ける。
 ④最外着は遮気(風)機能の高いものを1枚持つと安心。冬は羽毛着が威力を発揮。
 ⑤靴下は非常に重要。1足は2000円くらい。靴ずれをつくらないために、下に紳士用の薄いナイロン製靴下をはき、その上に厚手のをはくこともある。「替え」が必要。靴に合わせる。足の外皮の保護と保温が役割なので、状態に応じて工夫する。
 ⑥厳冬期の本格的な山に行かない限り、手袋について心配することはない。軍手や普通の毛の手袋で可。手袋も必ず替えが必要。 
 ⑦衣類の素材は、化繊であることを念頭におくこと。綿製品は下・中・上着のどれにも不適(低乾燥性=高保湿性なので加重にもなる)。毛は可(保温性は高いが、高頻度の洗濯に弱い)。

 (2) 靴
 ・ハイキング用靴:無雪期の軽い山行が主。布靴やジョギングシューズでも可。
 ・汎用登山靴(革製品):2.5~3.5万円と高価だが、軽く、はき心地がよく、信頼性が高い。春期(日帰り程度の残雪の山)~有雪初期まで使用可。
 ・重登山靴(革製品):四季を通じて使えるが、重い(片方で1.2kgくらい)。かつての登山靴の主流。
 ・特殊型重登山靴:重登山靴が厳冬期用に特化されたもので、高い靴底の剛性と断熱性が特徴。革製品とプラスチック製品とがある。ともに3.5~5万円。
 ・その他:沢靴(底にフェルトが張られたもの)、岩登り用靴(クライミングシューズ)
 ①靴は、足首の上まである(半長靴様)かどうか、ゴアテックスを使っているかどうか、も重要な点。短靴は不可(捻挫しやすい)。ゴアテックス仕込みがよいが、高価(1万円近く高くなる)。
 ②無雪期用と有雪期用とは使い分けるのが賢明。有雪期用は、アイゼン装着性も加味する。 
 ③靴ははじめに汎用登山靴を1足購入しておかれることをお勧めする(メーカーとしてはシリオ、スポーティバなど)。それで12月の2000mクラスまで使用できる。

 (3) ザック
 容量で類分けされる。山行の形態・日数、季節、性別(本来これはないはずだが)などによる。年間、平均的に山行を行うには、2~3種類くらいが必要となる。
 ・20~30リットル:日帰りハイキング、沢登り程度
 ・40~55リットル:小屋泊まり山行(1.5~2万円くらい)
 ・60~80リットル:縦走登山、1~2泊の冬山登山(2~2.5万円くらい)
 ・80~110リットル:本格的な冬山登山(2.5~3.5万円)
 本会会員で持つ最大の容量は110リットル。女性でテント山行に参加する場合には55~60リットルは必要(60リットルを勧める)。男性で厳冬期を射程に入れる場合は、70~80リットルが必要。ザックの重さの目安はないが、テント山行の場合、男性で無雪期で20kg前後、有雪期で25kg前後、女性で15kgまで、20kgまで。参考までに、厳冬期の3000mの山行では、男性で25~30kg程度となる。

 (4) 宿泊山行に必要な装備
 ・寝袋(シュラフ):羽毛仕込みのものがよい。山行によって異なるので要注意(寝袋ほどむずかしいものはないし、組み合わせのきくものもない。購入の際は相談ください)。
 ・個人用マット:有雪期はエアーマットが最上だが、無雪期はマットが不要。その他、ウレタン製の何種類かがある。
 ・食器:食事用とコップ、はし

 (5) その他
 ・帽子:周縁(へり)がある程度大きいのがよい(飛ばないように紐をつける)。とくに夏場は後頭部をおおうもの。
 ・タオル類や医薬品
 ・地図とコンパス(+高度計、GPS)
 ・登攀用具(ハーネス)やカラビナ、スリング類など

2) 共同装備
 (1) 生活用具:テント(数種類)、こんろ(ガソリン・ガス)、コンロ用燃料容器(0.5、1リットル)、共同(共用)マット、コッヘル(鍋のこと;〔独〕Kocher)、らんたん(ガス仕様)
 (2) 登攀用具:ザイル(数種類)など

山の会で持っている 共同装備類   

 「登山の装備表」にあげた装備類のうち、*で示した装備類が本会で所有する装備です。

                      ページトップへ


前のページへ

トップページへ