4月の山行

奥白根山(2577m)



前白根山の下りから見た奥白根山の全景。
(マウスを写真にのせると入れ替わります。)
前白根山から白根隠山、さらに錫ケ岳へ続く尾根へ下りたところ。


★実施日:2010年4月10‐11日(山中1泊)
★参加者:男性3名、女性2名(計5名)
★行路と進行:10日 6.00 我孫子駅北口・・〈高速道路〉・・9.10/9.40湯元---10.55/11.05 湯元スキー場上級者用リフト終点---13.15 /13.30外山の鞍部---14.10/14.25 天狗平---15.10/15.20---15.10前白根山---14.00五色沼避難小屋----〈泊〉---20.20就寝
11日 4.30 起床/5.20発---7.00奥白根山山頂---8.55/9.10避難小屋---10.15 前白根---10.50天狗平---11.25/11.40 外山峠---13.30 登山口---13.50/14.15 駐車場・・18.00 帰宅
★装備:〈共同〉テント(ダンロップ山岳6人用)、マット(2枚)、コンロ(ガス/ガソリン各1台)+燃料、スコップ(1本)、コッヘル(チタン大)/〈個人〉防寒着、アイゼン、ピッケル、雨具、サングラス、その他
★経費:交通費(車、高速道路料金、燃料)がすべてで、1人約5,000円

■この時季の奥白根山山行について
1)根精トンネルが4月25日前後の開通なので、その前だと、日光側からは湯元から入山するしかない。五色山からと外山からとの2つのルートがあるが、一般的には後者がもっぱらだ。ほかには沼田から入り、丸沼スキー場からロープウェーを使って登るルート、菅沼から登るルートがある(どちらも日帰り)。湯元から入る場合、車ならスキー場の南東側の国民宿舎の横の駐車場が利用できる(無料)。本会では、これまで1泊でいつも山行は行ってきたが、思い切り早朝に出れば日帰りも可能だろう(ただし、締めて9時間はかかる)。
2)湯元のスキー場のリフトは3月23日でシーズンの営業を休止しており、40分ほどスキー場歩きがある。スキー場を登った地点からが登山開始地点となる。100
3)外山のコル(鞍部)までがこの山行の1つの核心部となる。1時間半余で鞍部に至る。
4)鞍部から前白根山までは意外と近く、天狗平を経て1時間15分ほど。前白根山の手前の岩稜へ至ると、突然、奥白根山の山体が顔をのぞかせる。ここから前白根山にかけてが絶好の撮影ポイントだ。振り返ると、男体山など日光の家族山が見事だ。
5)白根隠山(遠くは錫ケ岳)に続く尾根に下り、15分ほど進むと、右に直角に五色沼に下る分岐に出る。ここを15分ほど下ると、五色沼避難小屋に至る。
6)小屋は15人程度の収容力がある。トイレはない。今回は、正面のドアは残雪で完全に埋まっており、二階の窓が開いていたので、そこから出入りした。小屋の管理者による配慮だろうが、小屋の中の階段がその窓にセットされていた。
7)避難小屋からは1時間半程度で山頂に達する。厳冬期には、小屋から南に150mほど行った地点から右折して樹林の雪面を登る。その際、雪の質によっては雪崩の可能性があるから注意したい。この数十年でこの斜面の上に残った樹林が後退しており、雪崩の危険が増している。樹林が切れた斜面の上、少し傾斜が落ちた箇所から、左上部にトラバースして南東の尾根に取り付き、そこから山頂を目ざすのがよい。
8)雪面を通過すると傾斜が緩んで、雪が少ない砂礫地帯に出る(強風による)。この先はほとんど上りのない平坦地になる。ここから東に落ち込むガリーを右手にしながら10分程度西に進むと、山頂の岩稜隊が右手先に見えてくる。やや下ったあと、その岩稜に取り付いてすぐ山頂に着く。
9)下りは同じ経路を戻る。視界が悪い日は方向を見失わないように注意しよう。また、雪質(硬雪、軟雪、さらに新雪のときは)しだいでは、上りの急な斜面を下りにとるのは避けたい。南東に出ている尾根筋を来たとおりに下り、岩の出っ張りの上のところから雪面にトラバース状に下るルートをとる。
10)降雪量の少ない12月なら白根沢を、シリセードしながら、一気に下ることができる。それ以降は、雪崩の巣だから、ここを下山路に使ってはいけない。

■今山行の概要
▼1日目/晴れ
 6時に我孫子駅前に全員が集合し、Akさんの運転で常磐道を下る。友部で北関東自動車道に分岐し、さらに鹿沼から東北道に出た。予定どおり、9時すぎに湯元に着いた。最近は、観光地へ行っても人も車も本当に少ない。シーズンオフとはいえ、世情を物語る気がする。国民宿舎横の駐車場まで進んで、ここに車を停めた。荷物を整えて9時40分に出発となる。今回は全員にワカンを用意してもらったが、雪の状態から推測して不要と判断して車に残し、アイゼンを始発点から装着する。どちらも正解だった。
 Abさんに先頭をお願いした。まだびっしりの残雪だが、Akさんによると、このスキー場は3月には閉める、とのことだ。外山の北面の裾に沿って、リフトのワイヤーの下をたどる。スキー場の左端を、最後のリフトの終着駅目ざして登る。すでに残骸となりかけた上級者向け滑降用リフトの終着点の平坦面で休み、本格的な登山開始となる。いつもながら急な傾斜だ。斜面は凍結していたが、アイゼンの利きは絶大で、1時間半足らずで鞍部に着いた。ひと休みしてすぐ出発し、40分で天狗尾根に着いた。この先で数人の下山者に出会った。日帰り登山者だろう、小さなザックだった。
 天狗平から振り返ると、男体山の方面がよく見えた。頭を巻くように北側斜面をトラバースして尾根に出、ひとがんばりすると、奥白根山が突然、視界に入ってくる。入道頭状とでもいうのだろうか、岩峰で形成された大きな、迫力ある山体が行く手に迫ってきた。三伏峠からの塩見岳とともに、最初にこの景観を見たときは、度肝を抜かれる思いがしたものだ。白根隠山への尾根が前衛となっているその構図が、いつもながら目を引いた。いったん数十メートル下って、登り上がると、砂礫と岩ばかりの前白根山だ。ここは風の強い場所として知られるが、なるほど、だだっ広い山頂にほとんど雪はなかった。しばらく奥白根山の景観を楽しんで、ゆっくりと下りはじめる。
 白根隠山への前衛尾根の雪稜部を南に進む。この尾根には、西高東低の冬型気圧配置のときに奥白根山側から吹き付ける雪で雪庇ができるが、今年はその規模が小さかった(今年は冬型の気圧配置となった期間が非常に短く、降雪量が多かったのは太平洋側と日本海側の両側であって、本来多いはずの日本列島の脊梁部には雪は少ない)。しばらく雪稜上を行くと、やがて五色沼側への下りの道に入る。15分ほどで下る。
 小屋の玄関の戸は、完全に雪で埋まっていたが、幸い、残雪がうず高く積んだ玄関の上の窓が開いていた。中には人は誰もいなかったし、室内はきれいに整頓されていた。この時間だから、これから人が来る可能性も低く、小屋が僕たちで独占できるのだ。相談のうえ、明日の朝テントを撤収する苦労なども考えて、避難小屋を使わせてもらうことに一決した。
 早速に「乾杯 !」となり、ビールをご馳走になる。豊富なツマミが出てくる。雪面下30cmのところにあった氷化した堅雪をロックにした焼酎が、なかなかいけた。夕日が落ちるころから、小屋の中がしんしんと冷えてきた。一枚よけいに着込んだが、寒かったー。みんなで震えたが、テントのありがたみがよくわかったというものだ。
 翌日用の水と湯をたっぷり作って、8時すぎに就寝した。この小屋はネズミが出る、と書かれていたが、夜中、ガサガサと音がしたとみんなは言う。真偽は不明だが。
▼2日目/曇りときどき晴れ、山頂付近はガス
 4時半起床。時間を節約し、早めの登頂、そして下山を図るために、朝食はとらずに、5時20分、小屋を出た。かなり明るかった。Abさんを先頭に順調にルートをたどる。この山行の2つ目の核心部となる奥白根山東面の上りを、そのまま直登する。振り返ると、中禅寺湖を配した日光山群が大きく見え、しばしばシャッターを押した。しだいに傾斜が増していき、そこを登り切ると頂稜部に飛び出した。傾斜はゆるんで、そこをしばらく行くと平坦地になる。不思議とこの地帯に雪がほとんどないのは、このあたりが強風の通り道になっているからにほかならない。雪はすべて吹き飛ばされて、この山の東面や避難小屋のほうに落ちる。
 そのころから、周囲をガスがおおってしまった。まさに五里霧中だった。視程は50mほどに下がり、写真を撮りながら登った僕と他の4名との間に距離ができていた。一瞬、パーティーが分裂する危険を感じた。風があると声が届かないこともよくわかった。
 いったん急な雪面を北側に下り、岩場を登り上がると山頂だった。集合写真を撮って、すぐ下山にかかる。下りの東面は上りと違い、東南のカンテ(小さな、急な尾根状の岩の部分のこと)部をたどって、そこから急角度で左に折れて、傾斜のゆるんだ雪面をトラバース気味にとる。
 小屋に戻り、1時間後の9時すぎに下山にかかる。今回は、とにかく早い。白根隠山の稜線まで登りながら振り返ると、ガスが切れて奥白根山の山頂付近が見えはじめ、前白根山でしばし最後の景観を楽しむうちに、とうとう白根の全景が見えてきた。最後の景観を楽しんだのち、天狗平への尾根を下る。あっという間に外山のコルに着いた。
 ここからの下りは、いつになく大変だったようだ。傾斜が急なうえに、凍った表面が割れてバランスを崩し、足を落とし込む。慎重に、ゆっくりと下る。上部リフト乗り場からは通常の尾根ルートを少したどったあと、滑降面を下った。静かなスキー場だった。人の姿はなかったし、この日は、山中でだれ一人とも会わなかった。
 外山のコルから駐車場まで2時間半を要して、全員無事に下り切った。ここ数回、会山行で奥白根山が計画されながら、登頂に失敗を重ねていたので、少しは力が入っていたが、ひそかにホッと胸をなでおろした。帰りも同じ経路をたどり、6時に帰宅した。
 本当にみなさん、すごいなーと感心する。僕がその年齢になって、がんばる気概がはたして残っているだろうか。お疲れさま、そしてお世話になりました。


湯元スキー場の下、国民宿舎横の駐車場に車を停め、荷を整えて登山開始となった。出発の一歩目から、今回は全員アイゼンを装着した。この2日間の行動中、アイゼンを外すことはほとんどなかった。
外山へのきつい上りを行くと、樹林がたまに切れる。振り返ると根名草山のこんもりとした山体が頭をのぞかせた。
昨年12月に来た外山の鞍部を過ぎ、天狗平を間近にした上り。ここはトラバースして上部へ出る。
 
だだっ広い尾根上に上がり、前白根山を目ざす。左に奥白根山の山体が横顔を見せはじめた。どこかいかつさが漂い、視線をまっすぐに向けられない。
奥白根山の全容が見えてきた。しかし、まだ白根隠山の前衛越しなので、いきなりのでかさはない。以前は、この辺でなにかこわさと期待感を持ったものだ。

前白根山に至る。「来たなー!」と感じる。わが会で、この何年か、前白根山までも到達しえていなかった。三度目の正直といったところだ。
前白根山の山頂からの奥白根山。

前白根山から、礫土の露出体を西側の斜面に向けて下る。進行方向に見える銀嶺は、白根隠山から、遠くは錫ケ岳まで続く。
前白根山を下りきったところから白根隠山の方角へ。例年なら、この雪稜の左側には雪庇ができる。
前白根山からの下りで見た大きな奥白根山。
白根隠尾根の上から振り返った前白根山。赤茶けた地肌を年中絶やさない山だ。報告の中で言及したが、ここは風の強い山として知られる。ここからの奥白根山の全景のでかい眺望が、この山行の目玉となることは違いない。

白根隠尾根を行く。20年前、この尾根の上にはまだ豊かにダケカンバが叢生していた。それが、この写真のような疎林地帯に変わり果てた。
白根隠尾根から五色沼の避難小屋の方面に向かって下り始めた。奥白根山山頂の割れ目から薙ぎ落としているガリー地帯が、陰影を刻む。知人の栃木県人、Oさん、Uさんに、このガリーを2人がスキーで滑り降りるビデオを見せてもらったことがある。

五色沼避難小屋。当初は、ここに泊まる意思はまったく持ち合わせていなかった。本会では避難小屋も含めて、小屋泊まりは例外となっている。しかし、小屋に着くと、周辺には人っ子1人いなかったし、小屋には二階の窓から入ることができた。小屋の内部も整頓されていて、清潔でもあった。明日からの天候と、テントを張ったあとの苦労を考えて、小屋を利用させてもらうことを決めた。わが隊だけで、この小屋が独占できた。しかし、避難小屋というものは寒い。
寒い小屋の中で、ガソリンコンロを盛んに燃やして、暖をとった。

翌朝、避難小屋を後にして間もない午前5時半ごろ。樹林が間もなく切れる。上部の岩を乗り越すと、急坂となる。
奥白根山東面。通常、五色沼避難小屋から頂上を目ざす場合は、ここがどうしても通過点となる。直登すると、30度超の急坂だ。この手前から左にトラバースして、南東稜に出て、頂稜を目ざすのが無難だ。この時期はいいが、軽い新雪が降りる正月前後には、この傾斜では雪崩の心配がある。以前は、この斜面の左右に、上のほうまでダケカンバの疎林が根強く残っていたが、酸性雨・霧の影響でこの斜面の樹林はほぼ枯れ果ててしまった。

雪稜部の上りで振り返る。左端の茶色の山が前白根山、背後の緑色の山体が右から男体山、大真名子山、小真名子山、女峰山、太郎山。
東面の雪稜の最後の上り。雪が締まっていて、アイゼンの立ちはよく、不安感はない。傾斜は40度近い。

頂稜部にさしかかるころ、雪とガスが舞い始めた。視界がさえぎられそうになる。山頂までの数百メートルの間、平坦な雪原が広がり、視界がきかない場合、進路を失う危険がある。また、パーティーが断裂すると離ればなれになる危険がある。
奥白根山山頂。この日、山頂を目ざしたのは私たちだけだった。下山しきるまで、誰1人にも会わなかった。

帰路も頂稜部付近では、残念ながら視界は晴れなかった。
小屋を後にし、白根隠尾根の上りから振り返り仰ぎ見た奥白根山。

前白根山山頂付近で見た水たまり。4月から5月初旬にかけて、奥白根山の周辺には多数の大小の「泥濘池(ぬかるみ)」ができる。これは、地底に一面、凍土が存在しているためで、融解水の地下への浸透をさえぎり、また水の流下を押しとどめている。降雪量が多く水分が豊富なこと、寒冷・強風地帯であること、そのため地表が雪をかぶらず極低温の地下への到達が可能な場所、さらに土質がシルト(粘土と砂の中間径の土)であること、といった条件が備わった地帯にできる。ピッケルの先端を山面に突き立てても、ガチッと抵抗して立ち込まない。
最後の奥白根山。ガスが切れて、全容を見せてくれた。
天狗平への稜線上を下る。晴れ間が見え出した。あっという間に外山のコルに着く。しかし、ここからの下りが長く、青氷化した箇所や道崩れがあって、意外と危険だった。
その翌週に登った男体山から見た奥白根山。直前に遅い雪が降り、男体山もそうだが、奥白根山の方面は、それこそ真っ白だった。左端は錫ケ岳。

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