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大谷原(「おおたんばら」と読む)の橋の手前でタクシーを降りる。先に開けてきた景観に目を凝らした。この地点の標高は、1000mジャストといったところだ。自家用車が何台も停まっていた。すでに斜陽化したその日だったが、「進めるところまで」と当初の予定に従って場所を上に進め、30分程度行ったところで幕営地とした。その手前の右への踏み跡が、鹿島槍ケ岳東尾根への入り口だった。周辺に赤布が何本も垂れていた。 |
2日目、出発後の様子。進行方向右手が赤岩尾根、左手が冷尾根(ここに登山ルートはまったく取られない)。このあたりで標高は1100mそこそこ。 |
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この地点が西俣出合。ここから右は北俣本谷、左は西沢に行く。この左右を合わせて大冷沢となる。昨夜幕営した川原の岸辺も大冷沢の縁だった。1人のスキーヤーが西沢を登っていった。僕たちはここから右にとって、赤岩尾根に取り付いた(黄色い小さな標識があった)。 |
地図でも明らかなように、赤岩尾根の取り付きからしばらくは急激な傾斜が続く。木の根っこや瓦礫の落ち込み以外にほとんど裸地となった箇所はなく、雪のついた細い尾根をひたすら登る。尾根の左右に樹林を配しているが、尾根自体の傾斜はもちろん、尾根の左右に落ち込む斜面も急だ。以前の山行では、ここは上りに使っては危険だと銘記した。そこを、2人連れの若者が下ってきた。 |
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赤岩尾根を逸らさず、ひたすら高度を上げる。尾根の幅が少し太くなり、危険を感じることはなくなったが、傾斜は相変わらずだ。 |
出合から歯を食いしばること4時間半かけて達した高千穂平で。背後に爺ケ岳の東尾根が走る。爺ケ岳の北峰がぐんと近づき、いわゆる“ヒマラヤ襞”が特徴的だ。90度右に目を転じると、土崩れで赤茶けた下部を見せる冷池、そこかから続く布引岳、鹿島槍ケ岳の南峰・北峰、さらには東尾根にかけてが、湾状に1枚の障壁をなして立ちはだかる。冷池が指呼の間に見えるが、実は、距離からすると、西俣出合から冷乗越までのまだ中間地点でしかなかった。2人の夫婦連れが登ってきた。 |
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以前と比べて雪の量は多いように思えた。このあたりは、以前はハイマツが出、かといって登山道はなく、植物を傷めながらの登高だった。今回は、被雪した斜面を行く。この下は傾斜が急で、雪が緩むとブロック雪崩がおこる危険性がある。ダケカンバが空の青さに映える。 |
写真を撮りつつ最後尾を行く。目を離せないのが、やはり鹿島槍ケ岳方面だ。左から布引岳、鹿島槍ケ岳南峰、北峰。 |
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最後のトラバースを終えて飛び出た冷乗越。これまでの苦しさが、ここからの展望で一気に癒される。遠くは立山から劒岳にかけて、近くは爺ケ岳の3峰や冷池山荘が視界に入ってくる。苦しそうな後続にエールを送るが、トラバースが大嫌いなMhさんの耳には届かない。 |
冷池のテント場に差しかかって、尋常ならざる状況を見た。なんとテントの多いことか。以前の数張りに比べると、あまりな違いだ。推測するに、年配者が定年を迎えて、再度、山に戻ってきたのではないか。若者もけっこういたが、わが隊と同じような年配者による隊も少なくなかった。 |
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テント場近くから見た、残照に輝く鹿島槍ケ岳の頂稜部。太陽は写真の左側から最後の斜陽を注ぎながら、劒岳の八ツ峰付近に沈んだ。同時に、真っ赤な残照が爺ケ岳に当たった。近くは針ノ木岳、遠くは穂高連峰・槍ヶ岳まで、残照が最後の北アルプスの山岳部の造作を浮かび上がらせた。 |
冷池のテント場から見た、この日最後の爺ケ岳の北側斜面の輝き。濃度を下げながら、色彩の度を下げ、墨絵の世界に入っていった。場所をテントの中に替えて、疲れてはいたが、わが隊の仲間は遅くまで話を継ぎ続けた。 |
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下山日の3日の早朝、テントを出てしばらくして振り返り見た冷池乗越。冷池の山荘の向こうにあるケシ粒ほどのオレンジ色の点が、わが隊のテント。松本平野に霞がたなびいた。この日も晴れ上がる! |
鹿島槍ケ岳がしだいに近づいてくる。左から布引岳、鹿島槍ケ岳南峰と北峰。 |
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鹿島槍ケ岳への上りで振り返り見た爺ケ岳方面。早朝の荘重感が漂う。最奥の山脈は穂高連峰と槍ヶ岳。 |
山行まで数百メートルの距離。高所の雪稜の、えもいえぬ情感がかもされる。 |
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鹿島槍ケ岳南峰頂上から見た北峰。南北の峰の間は吊尾根とよばれる。北峰から右に下る尾根が東尾根だ。南峰から北峰へは、急なナイフリッジを下り、さらに雪稜を進んで取り付かねばならず、危険と時間の加減から今回も断念した(この時季の南峰登頂者のほとんどは北峰をパスする)。東尾根からかすかにたどるトレースが見える。吊尾根の中ほどの平坦面は幕営が可能だ。 |
鹿島槍ケ岳山頂から見た五龍岳、白馬岳の方面。画面上部の右手に伸びる白い稜線が遠見尾根。撮影者として、今回の写真ではこの一こまがいちばん好きだ。 |
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爺ケ岳中峰から望む南峰。意外に、けっこうなスケールだ。右の尾根に下れば種池に、山頂を越せば南尾根に続く。 |
爺ケ岳山頂付近から見た劒岳の方面。下に顕著な刻みをうがつ谷筋は、欅小屋沢。この沢が黒部川にT字状にぶつかった地点が、有名な十字峡だ。十字峡から左へとると下ノ廊下、それをさらに6~7km遡ると黒部湖に至る。 |
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爺ケ岳南尾根を下り始めた。進行方向に見えるのは、中央部左の平たい山が蓮華岳、その右が針ノ木岳。針ノ木岳から下っている雪渓が、有名な針ノ木岳雪渓だ。雪渓をさらに下にたどると、最低部となり扇沢に至る。この写真では見えないが、おびただしい自家用車が駐車している光景が俯瞰できた。南尾根は、ここからさらに左に進み、そこから右のほうに回り込むようにして扇沢出合に下る。 |
ようやく扇沢出合に着いて、ほっとした仲間(Mhさん、Kwさん)の表情。扇沢バスターミナルまで登り返す苦労を厭い、ここでタクシーの到着を待った。そのため、長野までバスで行って、長野新幹線で帰るという選択肢はなくなった。 |
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