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※残雪期(3~5月)の富士山の斜面で起こる融雪現象を想像してみましょう。とくに日射を受ける南面を中心として、日々、雪面は激しく変化します。無風状態で日射を受けると、雪の表面は光を内部に透過させるため、表面下1ミリメートルの層が熱せられて、いわば「温室構造」を持つこととなります。表面は下界に接しているため、冷却されたままの状態ですから、融解が起こりませんが、その部分がその下で起こる吸収熱を閉じ込めるため、表面下層ではどんどん融解が進みます。それがひるまずっと起こったことを想像すれば、どれくらいの雪が解けて水になっていくかがわかると思います。その部分は、夜間に冷却されて凍結します。つまり、雪の融解と凍結が繰り返されるわけです。その結果、表面下の層では、雪から氷へと雪の粒子が大きく変化していき、最終的には、それ以上の粒子の変化の起きない水分子=氷の状態にまで進みます。これが、ブルーアイス(青氷)と呼ばれるものです。この面を富士山のその時期の斜面は帯びています。それも、その上に薄く雪が積もった場合に、その恐ろしい状態が隠れてしまうのです。たくさんの雪が上をおおった場合には、滑りは生じにくく、滑動が生じたとしても比較的止まりやすいのですが、薄い雪では、その底の危険な層が露骨に現れます。一度、登山者が滑り始めたら、停止することはまずありません。残雪期の富士山でしばしば起こる滑落による遭難事故です。そのこわさを雪面の様子から推測して、登山を行う際の対応に注意を期する必要があります。 |